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蘭と一緒に竜胆8歳の誕生日を祝う話

私が働く店のママはとてもおねだり上手だ。
それはお客様に対してだけでは留まらず、私達従業員へと向き、それは確実にそのご子息へと受け継がれている。
人使いの荒い親に似て人使いの荒い子供達に、朝からパンケーキ焼けとか遊び連れて行けとか明日の遠足に愛妻弁当を用意しろとか、いろんな注文を受けては叶えさせられてきたのだけど、今日のソレは叶えちゃいけないきがしてる。一人の大人として、絶対に!

「ナマエ、オカネちょーだい」

今日も今日とてランドセル背負ったままウチに襲来した蘭ちゃんは、私のベッドにぼんっ!とランドセルを放り投げてそう言ったのだ。
「学校の集金袋なら、ママに渡してよ」
「ちげぇよ」
「んじゃ、消しゴム小さくなっちゃったとかー?私のあげよーか?」
「消しゴムじゃなくて、オカネくれって言ってんだけど」
「ちなみに百円何枚欲しいの?お手伝いしてくれたらお駄賃にあげてもいーか、ママに電話してみる?」
「ババアに電話しないでイチマンエンちょーだい♡」
蘭ちゃんの請求額に正直びっくりしてしまった私へと、彼は近づき私の膝の上へと乗り上げてくる。
「お膝座る?」と誘っても「ふざけんな」と返ってくるようになって久しい蘭ちゃんの言動から、また教育によろしく無い知識をどこかで仕入れてきて実行しているのだと予想した。
「あげなーい♡」
言いながら蘭ちゃんを捕まえてそのままぎゅうううっと抱きしめると、彼は力強くじたばたと暴れ出す。手足が長い子だからこのままここに閉じ込めるのは一苦労なんだけど、ぎゅうぎゅうと抱き込む私の腕の中で蘭ちゃんはこれみよがしな溜め息を吐いてから大人しくなった。
これは諦めたかな?なんて素直に蘭ちゃんを信じて腕を解いた私を、蘭ちゃんがぐいっと勢いよく押し倒して組み敷いた。想定外すぎる出来事に頭が追いつかず、ぱちくりと目を瞬いてしまう私を蘭ちゃんが見下ろす。
「ナマエ、イチマンエン」
小学三年生にどうしてこんなに力があるのかびっくりしちゃうほどの強い力で両手首を掴まれて身動きが取れない私の頬を、柔らかい金色の毛先が擽った。
「どうして一万円も必要なの?」
「竜胆の誕生日だから。俺もプレゼント買いたい」
「ふうん♡蘭ちゃんは、なに、買うつもり?」
「まだ決めてないけど」
「そっか。ねぇ、一万円もらえる程お仕事するのって結構大変なんだよ?」
「うん。知ってる。朝、ババアに店で働くからオカネちょーだいって言ったらダメだって言われたからナマエん家来た」
「そーなの?ウチに来てくれてありがとう♡でも、蘭ちゃんはママのお店じゃまだお仕事できないよ」
「なんで?」
「お店で働くには9歳じゃまだだめなんだよ。なんかね、そういう法律あるんだって。よくわかんないけどー♡」
「わかんねーのかよ」
へらーっと笑って言うと、蘭ちゃんはふふっと頬を緩めて笑う。彼が掴んでくる力も少し弱まり、掴まれた手首を動かせるかチャレンジしたけれどもそれは無理なようだった。
「竜ちゃんのお誕生日プレゼント、一緒に作らない?」
「ケーキは今年はダメってババアが……」
「そうだね。去年ケーキの二つはけっこうキツかったもん。だからさ、食べられないやつ」
「はぁ?」
「何がいいかな。うーん……」
蘭ちゃんに組み敷かれて見下ろされながら、打開策を考える。蘭ちゃんがプライド傷つけられることなく作れそうで竜ちゃんが喜びそうで、なおかつ食べられないやつ。
眉を顰めて不安気に薄紫色の瞳を揺らす蘭ちゃんが首を傾げたものだから、金色の髪の毛先が皮膚を擽りこそばゆい。そういや最近は竜ちゃんも蘭ちゃんみたいに髪の毛伸ばしてるしな。
「髪ゴム、作ろうよ。蘭ちゃんとお揃いで作ってあげたら、竜ちゃんすごい喜ぶと思うなー。蘭ちゃんの真似っこ大好きじゃん」
「まぁ……」
「ウチにある材料できっとできるよ。材料代は、蘭ちゃんがお仕事できる年になったら私のお店で働けばいーよ♡」
「は?ナマエなんかがババアみたいに店持てるわけねーだろ。ばか」
「えー?わかんないよー?」
蘭ちゃんからの暴言に屈する事なくクスクス笑っていると、彼は呆れたような顔して私の上から退いた。
今のうちにと、髪ゴムの材料を準備する私の後ろにちょこちょことついて歩いてくる蘭ちゃんは、きっと一万円貰って買ったプレゼントよりもっとすごいのを作れるはず。
手先が器用な蘭ちゃんだから日が暮れ始めた頃には、竜ちゃんの分と自分の分ともう一本、上手に仕上がる。それをラッピングしてゆく蘭ちゃんの手元を眺め
ていると、兄弟二人のモノとお揃いのもう一本を手に取り急に立ち上がった蘭ちゃん。
私の背後に周り、私の髪の毛を蘭ちゃんが作ったそれで束ね始めた。急に髪の毛引っ張られて、乱暴に扱われて、正直痛い。
「私にもくれるのー?」
「ん。ナマエがお店出せたら倍にして返せよ」
「なにそれー。髪ゴム二本りょうかーい♡」
蘭ちゃんが結んでくれたのはぐちゃぐちゃだけど、なんだか嬉しくなっちゃったから今日はこのまま過ごそうとしていたのに、蘭ちゃんを送る帰り道にまた乱暴に外されちゃった。
「あたまぐちゃぐちゃのナマエ連れて歩くのはずかしーんだけど!」
文句言いながらも解いた髪ゴムをしっかり握らせてくるから、蘭ちゃんがくれたこれはとても大事な宝物にしようと思う。さて。今年の竜ちゃんの誕生日が楽しみだ♡


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