竜胆と一緒に蘭9歳の誕生日を祝う話
0525
時刻は十五時を過ぎた頃。そろそろ来る頃だろうと身構えていると、けたたましく連打されるインターホン。
来た来た!
ガチャリと玄関のドアを開けると、驚愕した顔してこちらを見上げる竜ちゃん。こんなに早く玄関のドアが開くなんて思っていなかったみたい。
「ぅ、え。ナマエ、開けんの早すぎじゃね!?」
私に行動を読まれていた竜ちゃんは、首を傾げてインターホンを押す手を止めた。
「待ってたもん♡だって、明日は?」
「にーちゃんの誕生日!!ナマエ、オレも、ケーキ作るぞ!」
にこにこ笑顔で言ってのける竜ちゃんは、やはりケーキが作りたい。去年の竜ちゃんの誕生日に、私が蘭ちゃんとケーキ作ったから今度の蘭ちゃんの誕生日は竜ちゃんが真似したがると思っていたんだ。
でもごめん。ケーキはダメって彼らのママに念を押されてるの。去年の竜ちゃんの誕生日に、ママがオーダーした豪華なケーキと蘭ちゃんの手作りケーキでケーキ祭だったバースデーパーティーを思い出すと、また胃がもたれてきそう。
「今日はケーキより、もっとすごいの作るよ!準備出来てるからとーぞ♡」
ランドセル背負ったままの竜ちゃんを玄関へと迎え入れ、私の作戦が始まる。それは、ケーキではないもので竜ちゃんを納得させて明日の蘭ちゃんのバースデーパーティと今日の竜ちゃんの宿題を完成させる事!
「もっとすげーの?なになに?」
興味津々といった様子で大きな目をキラキラさせる竜ちゃんは可愛い。最近は蘭ちゃんの真似ばっかして可愛さ半減の生意気増量中だったから、思わず竜ちゃんのまぁるい頭をわしゃわしゃわしゃっと撫でると、途端にぷくーっと膨らむ柔らかいほっぺた。
「んだよ、やめろって。子供扱いすんな!もー、2年生なんだから!」
「もー2年生だから、連絡帳とか宿題とか自分で出せるかな?」
リビングのソファにランドセルを下ろした竜ちゃんに呼びかけると、彼は大きく頷いてから連絡帳を取り出して、とても誇らしげに私へと差し出した。
連絡帳に書かれた達筆な文字を解読して、竜ちゃんをキッチンへと誘う。
「何作んの?」
今日も、わくわかしてます!と顔に書いてあるような竜ちゃんへ、私は緩く拳に握った両手を腰に当てて発表した。
「プリンです!」
「はぁ?誕生日にプリン?ナマエ、バカなの?」
「プリンだよ?ほんのり甘くてぷるぷるのやつ作るよ♡超美味しいんだから!」
不服そうな竜ちゃんに、手を洗わせて、冷蔵庫を開く。中から卵を取り出して並べた。
「もー2年生だから、卵くらい1人で割れるのかなぁ…?」
これ見よがしにわざとらしく首を傾げて見せた私へ、竜ちゃんがくらいつく。
「割れるに決まってんじゃん!かして!?」
卵を手に取り、かぱっとボウルに割り入れてくれた竜ちゃんが得意気にボウルを差し出す。
「すごーい♡じゃあ、卵をといてね。」
はい♡っと泡立て器を渡して、今度は冷蔵庫から牛乳を取り出した。
計量カップで牛乳を測り、お砂糖も測って準備する。
「竜ちゃーん。卵とけたら、牛乳とお砂糖入れてまぜまぜしてーぇ?」
「まかせろ!」
竜ちゃんが混ぜてくれたプリン液を、耐熱の容器に入れてレンジでチン。チンする間真剣な眼差しでレンジの中を覗き込む竜ちゃんが、プリン液が形を変えるとおおお!と大きな歓声を上げた。
それを何度か繰り返して、竜ちゃんの家族の分と私の分を作ってくれた。粗熱を取って冷蔵庫で冷やす間に、竜ちゃんの宿題に付き合う。
「明日学校終わったら迎えに来るからいい子で待ってろよ。」
私の前髪を撫でながらそう言った竜ちゃんは、仕上がった宿題をランドセルに入れて帰ろうとするから、慌てて私はそれを追いかける。
「竜ちゃん、もう少しで暗くなるから送ってくよ。」
ランドセルがサマになる様になってきた後ろ姿に追いついて、隣を歩き始めると自然と繋がれる暖かい手。
小さなこの手と、もっともっと繋いでいたいと願った。
0526
最近の蘭ちゃんはいつもに増して可愛く無い。
9歳の誕生日プレゼントに欲しいものを尋ねても、「別に。」しか言わない。べつにってなによべつにって。去年までは大喜びで、最新のゲームソフトの題名をいくつも連ねたくせに三年生になった途端に蘭ちゃんの可愛く無い言動はさらに増えた気がする。
竜ちゃんなんてもー、二年生だからって、最近とっても良い子になったのにお兄ちゃんがこれじゃ竜ちゃんもせっかく良い子なのにそのうち蘭ちゃんの真似すんじゃん。
人様の家の子に余計な心配をしながら、とりあえずと準備した図書カードにリボンをかけた。
昨日と同じ時間にインターホンを連打されたので玄関を開けると、そこにはランドセルを背負った竜ちゃんだけがいた。
「おかえり。蘭ちゃんは?」
「知らなーい。ナマエ、オレが作ったプリンは?できてる?」
昨日ウチの冷蔵庫にしまっていったプリンが気になるらしい竜ちゃんは、そのまま冷蔵庫へと直行した。
冷蔵庫の扉を開けて覗き込む竜ちゃんの目は真剣だ。
「今。持っていく準備するね。」
竜ちゃんの目の前からプリンカップをとりだして、保冷剤と共に袋詰めした。灰谷家はすぐそこだけど念のため。
早く早くと急かす竜ちゃんと共に、蘭ちゃんのバースデープレゼントも持って家を出る。今日同様に暖かな小さな手を握って向かった灰谷家。
元気にただいま!が出来た竜ちゃんに続いて、お邪魔する。豪華なケーキを準備していた2人のママにご挨拶して、竜ちゃん特製プリンを冷蔵庫に入れさせてもらう。
リビングにランドセルの中身をぶち撒け始めた竜ちゃんをママと一緒に眺めていると、玄関から物音。きっと蘭ちゃんが帰ってきた。
「蘭ちゃーん!?」
「うるせー、ババア。」
ママからの呼びかけに、反抗的な言葉を返してリビングには顔を出さずに行っちゃう蘭ちゃん。
「まったく、お兄ちゃんなのに,。」
2人のママの小言が始まりそうなところ、リビングを抜け出して蘭ちゃんの部屋へ。コンコンっと部屋の扉をノックすると、また部屋の中から「うるせー、ババア。」と蘭ちゃんの声。
「それ、さっきも聞いたなぁ♡ねぇ、自分の女にババアなんて酷い言い方だと思わな〜い?」
扉に向かって話しかけると、カチャリと開く。そしてバツが悪そうに眉を顰めて私を見上げる蘭ちゃん。
「ナマエの事じゃねーし。」
「ママと喧嘩したの?」
「別に。」
「そっか。宿題は?」
「終わった。」
「もう?早いねー♡音読は?私聞いて、書いてあげようか?」
「…うん。」
ぽつりぽつりと喋る蘭ちゃんの部屋にお邪魔して、ふかふかのベッドに座った。
「今日は何読むの?」
「教科書。」
蘭ちゃんがランドセルから教科書と音読カードを取り出してこちらへと近づく。手を差し伸べると、音読カードが手渡された。
隣に蘭ちゃんが座って、ふかふかのベッドが僅かに揺れる。膝の上に教科書を開いた蘭ちゃんがさらさらと早口に読み上げる音読に耳を傾けながら、音読カードに◎をつけてゆく。早口で読み上げられた題材はすぐに終わっちゃって、カードに記入してる私の膝の上にぽすんっと倒れ込んでくる蘭ちゃん。
膝枕の体勢で教科書を抱えてる。そんな彼のふんわりとした前髪を撫で付けても、私の手は跳ね除けられる事はされないようだ。
「竜胆には言うなよ。」
「うん。竜ちゃんには内緒ね。」
「あと、ババアにも。」
「うん。ねぇねぇ、蘭ちゃん。知ってる?」
「なんだよ。」
「私ね、まだお兄ちゃんじゃない蘭ちゃんを知ってるんだよ。竜ちゃんが産まれるからママが入院した時も、私が蘭ちゃん預かってたの。」
「ふぅん。」
「だから、私の前では今みたいにお兄ちゃんしてなくてもい〜よ♡お兄ちゃんじゃない蘭ちゃんもだいすきだもん。」
「…ん。」
「ね。昨日竜ちゃんが、プリン作ったんだよ。ママのケーキのデザートに一緒にプリン食べようね?」
「ん。」
「みんなのとこ、一緒に行く?」
「………ん。……後で。」
しばらく私の膝でごろごろしていた蘭ちゃんと、リビングまでの道のりを手を繋いで歩いた。私の指一本握るのが精一杯だったあの蘭ちゃんの手が、指と指を絡ませて握れる程に大きくなっている事に、少しだけ驚いちゃったのは私だけの秘密。
前言撤回。最近の蘭ちゃんも、やっぱり可愛い。