蘭と一緒に竜胆7歳の誕生日を祝う話
「ナマエ!オマエ、パンケーキじゃないケーキ作れる?」
ランドセル背負ったままお家には帰らずにウチに来た蘭ちゃんは、これまたランドセル背負ったまま私を捕まえて食い入るようにこちらを見た。
「それはもしかしてスポンジケーキのことかな?ほら、ショートケーキとか?ケーキ屋さん的な?」
「そう、それ!すげーかっけーやつ!で、生クリームのやつな!」
勢いよく言う蘭ちゃんに気押されながら、彼の要望に頷いてみせるとほっとした様な顔で笑うものだから、蘭ちゃんのランドセルを下ろさせて落ち着いて彼の話を聞いてみる事にした。
竜ちゃんの誕生日ケーキを、チョコケーキにするかショートケーキにするか竜ちゃんがまだ決めかねているうちにママがチョコケーキを予約してしまったけど、竜ちゃんはどっちも食べたいと言うから蘭ちゃんがショートケーキをプレゼントしようとしたところ、お小遣いが足りなかったからウチに来たらしい。
「それで、蘭ちゃん。お小遣い今いくらあるの?」
彼が見せてきたのは、500円玉が一つと100円玉が2つ。これじゃ、お誕生日ケーキは買えないと納得し、蘭ちゃんに向き直る。
「ケーキを作る道具も粉も卵もウチにあるから大丈夫。蘭ちゃんはこれで、生クリームの小さい牛乳パックと、上に乗せたいフルーツ買ってきて。今の時期だと、ぶどうとか竜ちゃんも好きだし良いと思うんだ。」
蘭ちゃんのランドセルを預かり、彼をお使いに出す。その間に、蘭ちゃんのママに電話した。
蘭ちゃんがウチに居ることと、竜ちゃんのお誕生日ケーキがもう一つ増えることを伝えると、蘭ちゃんに怪我や火傷をさせないようにキツく言われただけで、蘭ちゃんのバースデーケーキ作戦は承認されたらしい。
竜ちゃんの誕生日は明日だから、今からスポンジ焼いて明日蘭ちゃんが学校終わってから一緒にデコレーションして彼がケーキを持ち帰れば間に合うスケジュールだ。
「ほんと、竜ちゃんの事大好きだな。」
普段口悪く態度も悪く大人の私をなめてかかっているような蘭ちゃんだけれど、彼が何より弟を大事にしているのは竜ちゃんが生まれた時から見ている。
夏休みにワッフル覚えさせたから、お料理に少し興味を持ったのかな?
興味のある時にやらせてみるのは、彼の成長にもなるはずだろう。
スポンジケーキを焼く道具と材料の準備をしていると、玄関の扉が開いて蘭ちゃんが帰ってきた。
彼は買ってきたものをキッチンまで運んで、自ら手を洗う。やる気満々だな。と、微笑ましく思いながら蘭ちゃんの初めてのケーキ作りのお膳立てに取り掛かった。
「卵割った手は一回洗おうね。」
「おう。」
珍しく素直に言うことを聞きながら、てきぱき動く蘭ちゃん。
「私、少しづつ入れてくから左手でしっかり押さえて混ぜようね。」
「おっけー。」
教えてもらってるくせに生意気な態度なのは相変わらずではあるが、憎まれ口なんて一切叩かずに取り掛かる蘭ちゃんの目は真剣だ。
このままお料理男子になってくれたら、蘭ちゃんのお嫁さんは幸せだなー。なんて、大きくなった蘭ちゃんを想像してニヤニヤしてしまう。
オーブンの中で膨らんできたスポンジをじっと覗き込む蘭ちゃんへ宿題はやったのか?と尋ねるとまだだと言う。
「今日の宿題なに?」
「九九カード。」
「じゃあ、焼きあがるまでに一緒にやろ。」
「ん。ナマエ、九九わかんのかよ。」
私を馬鹿にしたように言う蘭ちゃんは、ランドセルから九九の書かれた計算カードを取り出し、私の前で得意げに始める。
蘭ちゃんの宿題が終わる頃には、オーブンのタイマーが鳴り九九カードを手に握ったまま彼はオーブンの前へと急いだ。
「いい感じに膨らんでるの、見える?」
「うん。」
「じゃあ、後は私に任して。明日も学校終わったらウチね。続きやるよ。」
「ん。竜胆には秘密だかんな。」
ニシシと蘭ちゃんは楽しそうに歯を見せて笑った。
竜ちゃんの誕生日当日、昨日の約束通り蘭ちゃんはランドセル背負ってウチへとやってきた。
蘭ちゃんの下校時間に合わせて生クリーム準備を進めていた私の手元を覗くと、慌ててランドセルを下ろして腕枕を始める姿が今日もやる気まんまんで微笑ましい。
「なにニヤニヤしてんだよ、早くしろよ。」
手を洗いながら出た照れ隠しに、思ってもいない謝罪を口にして、生クリームを泡立てる用意を彼に提供した。
電動ホイッパーを使うのはきっと初めてであろう蘭ちゃんにハンドルを握らせ、私はホイッパー本体をがっつりと掴んでスタンバイさせていたボールの中にホイッパーの先を静かに落とし込む。
「蘭ちゃんスイッチ入れて?」
「おっけー!」
蘭ちゃんが手元のボタンを操作すると、大きな振動と共にホイップが始まり急な事にビビった蘭ちゃんの肩が跳ねて顔が引き攣る。
「今、びっくりしたでしょう!?」
すかさず尋ねた私に蘭ちゃんはぶんぶんと首を振る。
「してねーし!」
蘭ちゃんを揶揄いながら生クリームを泡立てて、いい感じの固さになってきたところで蘭ちゃんにスイッチを切ってもらった。
ホイッパーを蘭ちゃんから預かり、絞り口をセットした絞り袋を渡す。
「これに入れるんだよな?」
「うん。よろしくね。」
器用な彼ならきっとひとりでできるだろうと予想して蘭ちゃんに任せた。
生クリーム塗れのホイッパーを片付けている間に、蘭ちゃんは生クリームを絞り袋に移してくれていて、私の予想な正しかったと知る。
そして彼が昨日ここで焼いていたスポンジに、クリームを乗せてゆく。
ヘラで均等に伸ばしてゆく蘭ちゃんの手元を見ながら、初めてとは思えない仕上がりに感心していると突然玄関の扉が開いた。
「ナマエー?にーちゃんいる?」
玄関から聞こえた彼の弟の声にはっとした形相でこちらを見る蘭ちゃんに、笑顔を送り玄関へと向かう。
「竜ちゃん、お誕生日おめでとう!」
「さんきゅー!兄ちゃん居るんだろ?これ、兄ちゃんの靴だし。」
「そだね。でも今、蘭ちゃん忙しいから私と2人で遊ばない?」
「えー?なんでナマエなんかと遊んでやんないとなんねーんだよ。」
「いーじゃん。蘭ちゃんには内緒の遊びだよ。」
竜ちゃんの耳元でそう伝えてみせるお彼は目を輝かせた。
「仕方ねーな!」
そして、竜ちゃん相手に手遊びを始めると、それ知ってるし!とか俺のが早くできるし!とマウントをとってくる。
蘭ちゃんのケーキ作りは竜ちゃんに内緒だと蘭ちゃんから言われているから、竜ちゃんをキッチンの蘭ちゃんに近づかせない様に私は必死なわけで。
「もー、飽きた。ナマエつまんねーんだもん。兄ちゃんは?」
「仕方ないなー。じゃあ、もうあげちゃおうかな♡」
「なにを?」
「プレゼント。おいで、竜ちゃん!」
プレゼントと耳にした竜ちゃんは途端に目の色を変えて私を見た。
ワクワクしてると顔に書いてあるような竜ちゃんを寝室へと連れて行き、まだ渡すつもりのなかった誕生日プレゼントを竜ちゃんに手渡した。
「ありがと!ナマエ!」
キラキラした目で言う竜ちゃんは、開けていい?と聞いてくる。
「ちょっと見るだけだよ?」
そう伝えると、ラッピングのリボンを解いて袋の中を素直にこっそりと覗く竜ちゃんが微笑ましい。
「ナマエー!?お待たせ。おっけー!」
そこに蘭ちゃんも顔を覗かせる。
「なんだよ。やっぱ兄ちゃん居るんじゃん。」
仲間はずれにされたとぶーっと頬を膨らます竜ちゃんを横目に寝室を後にし、キッチンを覗くと蘭ちゃん特製のケーキが仕上がっていた。バランス良くデコレーションされたそれを、箱詰めして袋へ入れ、寝室を目指す。
「蘭ちゃん、竜ちゃん、お家帰るよ。暗くなってきたから送ってくよー!」
寝室を覗いて声をかけると、バタバタと足音を立てて駆け出す2人。
「そのままナマエも一緒にパーティーするぞ!」
竜ちゃんに言われて、目を瞬く。今年も誕生日パーティーに招待してもらえるらしい私は蘭ちゃんと竜ちゃんを連れて日の暮れてきた街へと繰り出した。