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今日の藤川家は一際賑やかだった。幼馴染と同期のメンバーを始め、伊達さんに連れられてナタリーさんが我が家に集まっている。
「ちょっと!少しは手伝ってくださいよ!」
「おー」
「すまない、真尋」
片手を上げてヒラヒラと手を振る松田さんと寝入ってしまった景くんを肩にのせた零くんにムッとしてしまう。萩原さんと伊達さんは縁側で残りのビール缶を開けていた。
「もう!」
「ふふっ...真尋ちゃんいいのよ!女二人で仲良く終わらせちゃいましょ」
「ナタリーさん...」
腕を捲り、息巻くナタリーさんはとても可愛らしくて、思わず私も笑顔になってしまう。すっかり空っぽになった皿たちを二人で片していく。居間と台所は廊下を挟んで向かい側にあるので、お盆にのせた食器たちを連れて年季の入った流し台を前にして私とナタリーさんが並ぶ。
「あら、お水出ないわ」
「すみません、うちのシンク古くてすぐにお水出てこないんです」
蛇口捻ってしばらくすると出てくるので...と言いかけたところで、水色のタイルが張られた昭和時代の流し場に水が流れ出てきた。
二人でせっせと食器を洗うのに夢中になってしまい、水の流れる音と食器同士が軽くぶつかることで起きる甲高い音だけが聞こえる。
ふとナタリーさんが口を開いた。
「私、真尋ちゃんとこうやって過ごせるのとっても嬉しいの」
「え?わ、わっ!」
「おっと危ない」
手から洗ってる最中の皿が滑り落ちてしまった。横からナタリーさんが拾い上げてくれる。
「最初、病院で会った時ちょっと怖い人かなって思ったのよ」
「怖い人...」
「淡々として、お医者さんにしては優しく人に寄り添うような感じじゃなかったし」
「すみません...」
「ううん、謝らないで。不安だった私からしたら、こんなに物をハッキリ言ってくれる人なら安心だわって思ったの。変に優しく対応されるよりずっとね」
ナタリーさんは手にしていた食器を天板の上に置き、私の手をそっと握る。
「ぼかさずに真実をちゃんも伝えてくれる。それって患者さんと真摯に向き合ってくれてるってことでしょ?」
藤川真尋自身を真っ直ぐ見てくれる瞳が私はとても好きだった。
「それから航の知り合いだって聞いて、あなたのこと知りたくて会わせて欲しい!ってお願いしちゃったもの」
「そ、れは光栄です...」
こんなに他の人のことに興味が出たのは航以来よ!と少し可笑しそうに話すナタリーさんについ恥ずかしくなって赤面してしまう。思わず顔を下に背けた私に、ナタリーさんはまた小さく笑った。
「あの、ナタリーさん」
「ナタリーって呼んで?」
私はなんだか照れくさくなって言い淀んでしまう。言葉を発しようとする口はパクパクと間抜けに開閉する。私は意を決して彼女の名を声にのせた。
「な、ナタリー」
「なぁに、真尋」
彼女にずっと伝えたかったことがある。
「私と友達になってくれて、ありがとう」
私も同じこと言いたかったの、と綺麗に笑うナタリーに思わずはにかむ様に私も笑った。
‧⁺ ⊹˚.
萩原と伊達は藤川家の縁側で残ったビール缶をぶつけ合っていた。
「真尋ちゃん、ナタリーちゃんと仲良くやれてんね」
「おう。最初はどうなることかとヒヤヒヤしたがな」
廊下を挟んだ向こう側で仲良さそうに並んで洗い物をする真尋とナタリーを見ながら、伊達はほっと息をついた。
「なんか二人が並ぶと姉妹みたいだな」
「確かにそう見えるかもしれんな」
時折ナタリーに視線を向ける真尋は、大好きな姉の様子を確認する落ち着きのない妹のようだ。
二人の笑い声を肴に萩原と伊達は酒を酌み交わしていた。気づいたら松田や降谷も一緒に藤川家で一晩を明かしていた。