北村想楽


「プロデューサーさん、それ何ー?」
想楽くんはそっと紅茶の入ったカップをデスクに置きながら、私が作業中の手元を覗いた。それ、とは恐らく私が今しがたメモ帳に落書きしたイラストの事だ。
「猫ですよ、猫」
「あんまり似てないねー」
「えぇ?結構上手く描けたと思うんだけど」
苦笑した想楽くんは私の持っていたボールペンをスルッと抜き取り、髭がないよーと描き足してくれた。
「想楽くんって絵描いてたんだっけ」
「僕じゃなくて兄さんがねー」
お兄さんは学生時代は絵を描いていたが、就職してからはめっきりやめてしまったと語る想楽くんの表情はなんだか少し寂しそうだった。
「横にもう一匹猫ちゃん描いて親子にしようか。想楽くん描いて?」
「えー?」
ね?お願い、と手を合わせると、渋々と言った感じで想楽くんはボールペンを滑らせていく。
「しょうがないプロデューサーさんだねー」
仲睦まじく並ぶ私の描いたちょっとブサイクな親猫と、想楽くんが描いた可愛らしい子猫の絵をデスクマットに挟んだ。
「寄り添って仲良く並ぶ猫二匹ー」
丁度雨彦さんとクリスさんが事務所のドアから顔を覗かせる。レッスンが始まるからと想楽くんを呼びに来たようだ。私は、紅茶が冷めちゃうから早めに飲んでねーと言い残して行く想楽くんの後ろ姿を見送った。