「えぇっ?!蘭の家に居候っ?!」
日が傾いてきた頃、広い工藤邸に驚きの声が響きわたる。
「あの奥手な新一が、子供の姿を利用して同棲なんて!」
「バーロー!変な言い方すんじゃねぇ!」
jewel.2
〈帰国 2〉
「それで、今のところそれ以上の進展は無いって事かぁ。」
今までの話を一通り聞いた柚希は、ソファーの背もたれにポスッと沈み込む。
「あぁ。…そういやお前、よく父さんが帰るの許したな?」
「言ってないからね。」
「はぁ?!」
可愛い娘に変な虫が付かないように、自分の側に置いておくのだと、中学卒業と同時に半ば無理やり柚希をアメリカに連れて行った優作を思い出し聞いたのだが、あまりにも予想外の返答に驚く。
「だって素直に帰してくれる訳ないでしょ?だから、強行突破!あ、でもお母さんには言ってあるから大丈夫。」
「ハハ……父さん今頃泣いてるぞ。」
悪びれた様子も無くさらりと言う柚希を呆れた目で見ながら、コナンは可哀想な父に同情した。
「そんな事より、新一が居ないのにこの広い家に住むのは淋しいし、何処か借りようかな?」
(そんな事かよ…)
「あぁ、そうしてくれ。組織の奴らがこの家を調べに来る可能性も、無いとは言えないしな。」
柚希の言葉にさらに呆れながらも、コナンは真面目な顔に戻る。
「学校の手続きはどうするんだ?帝丹だろ?」
「阿笠博士にお願いするつもり。帝丹じゃなくて、江古田だけどね。」
えへ、という効果音が似合いそうな笑みで言う柚希に、コナンは訝しげな顔をする。
「江古田?何でまた…帝丹なら蘭や園子も居るし、中学の知り合いも多いだろ?」
「だからこそだよ。気休め程度でも、情報源は多い方が良いでしょ?」
「そりゃそーだけどな……オメー、本当にそれだけが理由か?」
ジーッと疑いの目を向けてくるコナンに、柚希は僅かに顔をひきつらせる。
「本当にって、むしろ他に何の理由が…」
「“バラの男の子”。」
「!!」
コナンの口から出たキーワードに目を見開いて息を飲む。
「オメーが昔一目惚れしたっていう男の子、未だに忘れてねぇんだろ?荷物の中の本からはみ出てるぜ、その時の“押し花のしおり”が。」
柚希が自分の手荷物に目をやると、確かに読みかけの文庫本からしおりがはみ出て見えている。
「確かそいつと会ったのは、母さんに連れて行かれた江古田駅前の喫茶店…。もしその辺りに住んでるなら、上手くすれば会える可能性があるって思ってんだろ?」
黙ってコナンの言う事を聞いていた柚希は、しばらくコナンの目を見つめた後、下をむいてため息を付いた。
「ホント新一って、色々気付きすぎ…。その通り、ちょっと期待してるのは本当。でも、可能性はものすごく低いし、あくまでも情報収集の話があってのついでだから。」
諦めた様に白状したものの、念を押すように言う柚希にコナンは苦笑する。
「バーロ、んなこと分かってるよ。オメーが言おうとしねぇから、ちょっとからかっただけだ。」
「…いじわる。」
拗ねたように頬を膨らませる柚希に、コナンはフッと優しく笑う。
「でも、そいつと会ってからもう10年だろ?その頃の面影か残ってたとしても、すぐに分かるとは…」
「分かるよ。根拠がある訳じゃないけど、会えば必ず分かるって感じるの。」
「…へぇ。ま、運良く再会しても、そいつがもしもろくでもない様なヤローだったら、俺は全力で邪魔するぜ?」
ニヤッと笑いながら言うコナンに、柚希は思わず嫌な目をする。
「新一、お父さんみたい。」
「大事な妹を変な奴にやれるかよ。それに、ちゃんとした奴なら文句は言わねぇんだ、父さんよりマシだろ?」
「……シスコン。」
「言ってろ。」
嫌味な言葉と裏腹に笑顔の柚希に、コナンの口元も笑みを浮かべた。
update 2014.10.05