薔薇と宝石の約束




快斗の声に渋々言い合いを終わらせるものの2人は睨み合ったまま。騒いでいる様子を聞き付けた蘭が小五郎の元に来てくれた為、そちらの説明は蘭に任せ、快斗は中森に向き合う。


「何なんだ、アイツの言ってる妙ちくりんな奴は?」


“妙ちくりん……”と脳内で自分を差した呼び方への言葉を反芻し苦笑しつつ、恥ずかしさを我慢し簡単に説明を始める。


「警部、昔俺と柚希が出会った時の話って青子から聞いてます?」

「あぁ、大体だけどな」

「その時、俺がマジックで出したバラの花をあげたんすけど、柚希が自分の周りの人にその話を結構したみたいで……そこから“バラの男の子”って呼び名が浸透しちゃってるんです」


“ほぉ……”と溢しながら快斗の話と先程のやりとりを改めて整理した中森は、んん?と眉間の皺を深くした。


「て事は、アイツが勝手に騒いだだけで、何の問題もないじゃないか!」


小五郎を指差しながら言うと、それに気付いて再び食って掛かりそうになるのが見えたが、蘭に諫められたらしく小五郎は大人しく引き下がった。

そんな事をしていると、隣の部屋へ続いている扉がガチャリと重い音を立てて開かれた。
出てきた目暮は、小五郎と中森の姿を見つけて怪訝そうな顔をする。

「何で君達が此処に居るんだね?」

「「柚希ちゃんはうちの娘の大事な友人、つまり私の娘も同然っ──!」」


ものの見事に声を揃えた後お互い睨み合う2人に、目暮は呆れた視線を向けてから、一度咳払いをする。


「柚希君の持っている発信器の信号を受信する為の準備は整った。柚希君の意識が戻り、スイッチを押してくれるのを祈るのと同時に、犯人からの連絡が入ったら、どんな些細な情報でも拾い上げる!それが、今我々に出来る事だ」


捜査員達が揃って返事をする声を聞きながら、快斗は何も出来ないもどかしさを抑えるように強く歯を食い縛った。





jewel.94
〈守るべきもの 6〉







犯人からの電話が来た場合に周りの人も会話内容を聞けるよう、ヘッドホンが複数用意された。
そのうちの1つを快斗に貸してくれるという話だったのだが、“子供の方が聴覚が敏感だから、何か聞き取れるかもしれない”等と理由を付け、コナンと灰原にも貸して貰える事になった。

最初の連絡からの時間を考えると、もういつ掛かってきてもおかしくない状況だ。
園子の父の史郎も少し前に会社から駆けつけ、電話の前に待機している。その周りで捜査員は各自配置に付き、壁際では蘭や園子、屋敷の使用人達までもが固唾を飲んでその様子を見つめている。

電話をじっと見つめる快斗の両手は、目の前に置かれているヘッドホンに添えられたまま、熱を奪われ既に冷えきっていた。
ただ待つ事しか出来ないというこの状況で、時間が無限にも感じる程長い。
電話に意識を集中したあまり無意識に呼吸を止めてしまい、一度長く息を吸い込むと、ゆっくりと吐き出す。
そして一端落ち着くはずだった呼吸は、突然鳴り響いた機械音に邪魔をされた。


「お願いします」


録音の準備が出来ているのを確認して目暮が史郎に合図すると、深く頷き受話器に手を伸ばす。


「はい、鈴木です」

《鈴木史郎か?》


変声機を利用した機械的な声が、ヘッドホンを通して響き渡る。


「そうだ。送られてきた写真は確認した」

《金の用意は出来ているのか?》

「待ってくれ、あの子は娘ではない!」

《何?そんな訳が……ちょっと待て》


受話器を手で抑えているのか、向こうの声はくぐもってハッキリと聞こえない。
しばらく物音や会話のような音が聞こえた後、再び機械的な声が響いた。


《確かに、人違いをしたらしい……》

「だったらすぐに柚希ちゃんを解放するんだ!」

《柚希……?こいつの名前か。どうやら、全く関係ない人物ではないようだな》


犯人の言葉に、警察の面々と快斗、コナン、灰原がハッと息を飲む。


「どういう意味だ?」

《娘程ではないにしろ、人質にはなるって事さ》


史郎を含めすぐには意味を理解していなかった人達も皆、焦りが表情に浮かぶ。


《金の受け渡しについてはまた連絡する。用意しておけよ》


ブツッと通話の切られる音が響き、史郎がゆっくりと受話器を戻す。


「すみません、私が余計な事を言ってしまったせいで……」

「いえ、どちらにせよ無条件で解放はしないでしょう」


俯く史郎に目暮が声を掛ける向かい側で、快斗の傍に椅子を降りたコナンと灰原が集まり小さく意見を交わしていた。


update 2024.4.18

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