逃がしてあげない




金曜日の放課後、蘭と園子と共に家路を歩くコナンは、視界の先で路肩に止まった車に気付く。


(ジャガーのスポーツクーペか…)


スタイリッシュで気品のあるパールホワイトのそれにチラリと視線を向けていると、運転席から降りて来た姿に僅かに目を見開いた。





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こんな高級車に乗るのはそれなりの年齢の男性辺りだろうと思ったが、実際降りて来たのは細身の女性。
遠目で良くは見えないが、かなり若そうに見える。

へぇ、と感心して視線を外そうとした時、その彼女はこちらに向かって片手を上げた。


「園子!」

「え?……実紗稀お姉様?!」


突然名前を呼ばれた園子は、その声の主が見覚えのある人物だと気付くと驚いてそちらへ駆け出した。
顔を見合わせた蘭とコナンも数歩遅れてそちらへと足を向ける。


「実紗稀お姉様、アメリカに行ってたんじゃないの?!」

「だって、せっかく留学したのにレベルが低くてつまらないんだもの。講義の内容がある程度進むまで休暇よ!」

「レベルが低いって…ハーバードに行ってそんな事言う人、普通居ないわよ…。」


呆れた様に言う園子にフフッと笑うと、実紗稀は後ろに立つ蘭へと視線を移す。


「園子のお友達?」

「あ、はい!毛利蘭と言います。こっちはうちで預かってる子で…」

「江戸川コナンです!」

「私は高嶋実紗稀。蘭ちゃんの事は園子から聞いた事があるわ。本当に可愛いのね!」


他意の無いストレートな褒め言葉に、蘭はそんな事ないです!と否定しながら顔を真っ赤にする。


「実紗稀お姉様はパパの親友の娘で、昔から良く一緒に遊んでたの。高嶋クリエイトの社長令嬢よ!」

「高嶋クリエイトって聞いた事ある…。」

「確か、日本の物づくりを世界に広めて大成功した会社だよね?」


思い出そうとする蘭にすかさずコナンがそう言うと、実紗稀はニコリと笑いながらへぇ…とコナンを見下ろす。


「良く知ってるのね、コナン君。何年生?」

「い、一年生…。」

「この子、無駄に変な事ばっかり知ってるのよ。」


園子が呆れた様な目でそう言うと、実紗稀はコナンの前まで来てしゃがみ、その頭に掌をぽんと乗せる。


「あら、人には無駄に思える事でも、知識は邪魔になる物ではないわ。いつどんな風に役に立つかも分からない。蓄えられる物は存分に蓄えなさいね?」

「…うん!」


驚いた様な顔をした後、笑顔で元気の良い返事をしたコナンに満足そうに頷いた実紗稀は、一度頭をクシャッと撫でてから立ち上がる。


「そうだ園子、今日はあなたにお願いがあって来たのよ。あなたの友達…工藤新一君に取り次いでもらえない?」

「新一君に?!…実紗稀お姉様、新一君の事知ってるんだっけ?」


園子だけでなく、蘭とコナンも驚いているのを見て実紗稀は苦笑する。


「一方的に知っているだけよ、新聞とかでね。取り次いで欲しいっていうのは、彼なら警察に顔が利くと思って…。」


なるほど、と納得するのも束の間、新たな疑問が浮かび上がった。


「警察に…?」

「そう。私がいきなり行っても無理だけれど、彼を通せば多少は融通が利くかもしれないから。」

「ちょっと待って、まさかお姉様…何か事件に巻き込まれてるとかじゃ…」

「大丈夫、そんな事じゃないわ。」


綺麗に笑う姿に安心した所で、蘭がそっと口を開く。


「あの、新一は今事件が忙しくて中々連絡が取れないんです。もし良ければ、うちの父に相談してみますか?」

「そうだったの…。蘭ちゃんのお父様は何か伝手を持っていらっしゃるの?」

「お姉様は、眠りの小五郎って聞いた事ない?」


何処かで聞き覚えのあるそれに記憶を探ってみるが、思い当たる節は見つからない。


「んー…分からないわ。最近の日本の話題はチェックしてなくて…ごめんなさい。」

「いえ!そんな気にしないで下さい!父は探偵をやってて、ごく最近、少ーし有名になってきただけですから。」


実紗稀に気を使って言ってくれたのだろうが、それにしても厳しい蘭の言葉に思わず笑みが零れる。


「小五郎のおじさんは昔刑事だったから、事件で会う以外の警察の人にも、顔が利くんじゃない?」


コナンの言葉にそれは有り難いわ!と言うと、蘭に向き直る。


「是非お願いしたいわ!会わせてもらっても良いかしら?」

「勿論です!」


笑顔で答える蘭にお礼を言って話が纏まった所で、園子が一番の疑問を投げ掛ける。


「ねぇ実紗稀お姉様。そもそも、警察に取り次いでもらって何をするの?」


車へと足を踏み出していた実紗稀は、園子の質問に足を止めるとゆっくりと振り返る。
その顔には挑戦的な笑み。





「怪盗キッドを捕まえるのよ!」

update 2016.4.25
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