「捕まえるって………キッド様を?!」
心底驚いた様子の園子の言葉に、実紗稀は引っかかりを覚え、ほんの僅か顔をしかめる。
「キッド“様”…って、もしかして園子は彼のファンなの?」
「だって素敵じゃない!月夜に映える純白の姿、華麗な業で鮮やかに目的の品を盗み出す!」
「気にしないで下さい実紗稀さん。園子には京極さんっていう素敵な彼氏が居ますから…。」
苦笑しながらそう言う蘭に“真さんは真さんよ!”と反論する様子に、実紗稀は安心したように小さく息を吐いた。
「それよりお姉様、目的がキッド様なら、警察よりもっと手っ取り早い方法があるわよ!」
「え?」
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実紗稀の運転するジャガーの助手席には蘭、後部座席にはコナンと園子の姿があり、目まぐるしく変わる景色に三者三様の反応をしていた。
「うわぁ凄い早いですね!……って園子、大丈夫?」
「な、何とか…。」
後ろを振り向いて心配そうな声を出す蘭にゲッソリとした表情で返すと、実紗稀はバックミラー越しの園子にチラリと視線を移す。
「この車、後ろに人が乗るのは前提としていないものね。」
「実紗稀お姉様…楽しんでるわね…?」
「あら何の事?それより、コナン君は大丈夫?」
ミラーに映った目が笑っているのを見て園子はジトッと睨むが、実紗稀はサラリと受け流すと難しい顔をしているコナンに声を掛けた。
後部座席があるとは言え、本来そこに人を乗せるという目的で作られていない為、ゆったりと座るスペースは存在しない。
膝は前のシートにぶつかるし、頭上も低く圧迫される。
そんな状況の中、加速や横向きのGが掛かるのだから、負担は想像以上。
「僕は大丈夫だよ!子供だから狭くないしね。」
明るく答えてくれるコナンにそれなら良かったと微笑むと、隣の蘭がそう言えば…と遠慮がちに話掛けてきた。
「実紗稀さんってお幾つなんですか?」
「もうすぐ十九歳よ。」
えぇっ?!と言う声が重なり、実紗稀は目を瞬く。
「え…意外?」
「大人っぽいから二十代前半だと思ってました…。」
「お姉様は昔っから上に見られるのよね。」
「それより実紗稀さん、免許取って一年経ってないって事でしょ?だけど、やけに運転上手いし、初心者マークも付いてないよね?」
園子の声に被るかの様にコナンは聞く。
もうすぐ十九という事は、十八歳になった直後に免許を取得したとしてもまだ一年経っていないはず。
そして、MTのこの車を自在に操るテクニックは、いくらセンスがあっても一年足らずでモノに出来るとは思えなかった。
「あら、良く見てるのね。初心者マークは、跡になるのが嫌で乗る時だけ付けてたのに、久しぶりで忘れちゃってね。今日は大目にみて欲しいわ、小さな探偵君。」
「ぁ…うん、分かった!」
“探偵君”と呼ばれた事で一瞬驚いたものの、すぐにそう答えてくれたコナンに実紗稀は微笑む。
「ありがとう。因みに運転は、昔からレーシングカートとかをやってたからかしら。シミュレーションゲームも良くやってたわ。そんなに上手いとは思わないけど、一応レースに出た事もあるし…。」
(お嬢様がレーシングカートって…。ま、どうりで母さんより腕が良い訳だ…)
凄いですね!と言って色々聞いている蘭の声を聞きながら、コナンは呆れた様な目でその様子を見ていた。
「やっと解放された…!」
車から降りるなりそう言って天を仰ぐ園子に苦笑しつつ、一同は鈴木財閥所有の建物へと入って行く。
様々な使用用途のある施設で、今はとある展覧会の為の準備でスタッフがバタバタと動き回っている。
「おじ様!」
「おぉ、園子。来るのは明日じゃなかったのか?」
「ちょっと会わせたい人がいるのよ。」
「お久しぶりです、次郎吉おじ様。」
園子の後ろから実紗稀が一歩踏み出すと、次郎吉はその姿に目を見開いた。
「おお!高嶋の娘の実紗稀か!随分綺麗になったものじゃ!それにしても、突然どうした?今は確か、ハーバードに通っておると聞いとったが…。」
「学校は進みが遅くてつまらないので、しばらくお休みです。」
「ん?しかし、それなら飛び級なども出来るのではないか?」
昔から頭脳明晰な実紗稀の事を知っている次郎吉は、不思議そうに訪ねるが、実紗稀は心底心外だという顔をする。
「あらおじ様、そんな事をしたら花の大学生活が短くなってしまうわ。私は余った時間を自由に使いたいもの。」
「アッアッアッ、なるほどな!して、此処でその自由な時間をどう使う気じゃ?」
大声で笑った後、ニヤリとした笑みを浮かべながら次郎吉が問い掛けると、実紗稀は待ってましたとばかりに口角を上げた。
update 2016.5.12