厳重な警備が続く廊下を歩きながら、一歩前を行く実紗稀が二人を振り返る。
「突然連れ出したりしてごめんなさいね。私は高嶋実紗稀よ。」
「中森青子です!こっちは…」
「あ、黒羽快斗です。」
よろしくねと笑う実紗稀の横顔を見つめながら、快斗の胸中は次々と浮かぶ疑問で溢れていた。
(何でこの人が此所にいるんだ?名探偵とも知り合いみてぇだけど…それで連れて来られたとしたって、この前までキッドの事を知らなかった人にしてはやけに積極的に関わろうとしてる様に見える…)
そんな快斗の思いを代弁するかの様に、青子は実紗稀に声を掛ける。
「高嶋さんは、どうして此所に来たんですか?」
「実紗稀で良いわ。この展覧会を開催している鈴木次郎吉おじ様とは、家の関係で元々知り合いでね、関係者として入れて貰える様にして下さったのよ。」
「展覧会に興味が?」
核心的な所を言わない実紗稀に快斗がさらに質問を重ねると、一瞬間を置いてから意味有り気な表情になる。
「私ね…怪盗キッドを捕まえたいの。」
「!!」
「実紗稀さんも?!やっぱりキッドは泥棒だもん!捕まえるべきですよね!」
急にテンションが上がり、父が今までずっとキッドを追ってきた等と話続ける青子を、実紗稀は困った顔で落ち着かせようとする。
一歩離れた快斗は、あまり表情を出さない様にしていたが、それでも何処か苦し気な面持ちは隠しきれていなかった。
capture.7
「快斗はマジックがすっごく上手なんですよ!」
青子のその一言でマジックを披露する事となった快斗が、此処では何だからと近くの河原へ移動しようと提案し、三人は会場を出て歩いていた。
「でも本当に良かったんですか?出てきちゃって。」
「えぇ、会場自体の調べたい所はもう全部チェックしてあるの。後は資料や警察側の対策内容を検討する位だから、家でも出来るわ。」
「頑張って下さいね!青子、実紗稀さんの事応援してますから!」
ありがとう、と微笑んだ実紗稀は視界の先に見覚えのある場所を見つけて二人に声を掛ける。
「ねぇ、河原まで行かずに、あの公園でどうかしら?」
そう言って指差された公園は、あの夜キッドと実紗稀が出会ったその場所。
あの時たまたま通り掛かったというのは本当だが、キッドが虐待現場を見つけたのは実紗稀があの場に来るよりも前。
当然彼等の前に直接姿を現す気など無く、通報するか自分を追っている警部達を誘導するかと考えている所に、彼女は現れた。
最初は迷い無く飛び出して行くその姿に呆気に取られていたが、気付いた時には助ける為の手が動いていた。
僅かな時間のやり取りしかなかったが、実紗稀から悪い印象を持たれた様には思っていなかった。
しかし、今彼女は“キッドを捕まえる”為に行動している。
(あの時、“俺”はこの人に嫌われた…?)
そこまで考えて、快斗は初めて自分の気持ちを自覚した。
(信じらんねぇ、けど……惚れてたのか、俺。真っ直ぐな眼をしたこの人に…)
「快斗君?」
「え?あっ…そうですね、そこにしましょう。」
不思議そうな顔で覗き込んでくる実紗稀に呼ばれて我に返ると、快斗は慌てて公園の方へと足を動かした。
何処か落ち着きの無い様子の園子と蘭がふと視線を動かした時、会場の入口に人影を見つけ慌てて駆け寄って行く。
「実紗稀お姉様!何処行ってたのよ?!」
「え?…私、少し出てくるって言わなかった?」
「言ってないわよ!もう、急に居なくなるから心配してたんだから!」
「まぁまぁ。無事に帰って来てくれたんだから良いじゃない園子。」
すっかり伝言するのを忘れていたのに気付き、詰め寄る園子に眉を下げる。
「ごめんね、心配してくれてありがとう。」
「…そんな顔されたらもう怒れないって。」
少し呆れた様な表情で言う園子の言葉に、安心した気持ちが入っているのを感じて、蘭は微笑ましくその様子を見つめていた。
「あれ、実紗稀さん戻って来たの?」
後ろから聞こえた声に振り返ると、数枚の紙を持ったコナンの姿があり、それが中森に頼んでいた資料だと気付いた実紗稀はお礼を言って受け取る。
「中森警部から展示を観てるって聞いてたけど…。」
「探してくれてたの?ごめんね。」
「ううん、大丈夫だよ。」
もう今日は此処でやる事は無いからとそのまま帰る事にした四人は、次郎吉に声を掛けてから少し離れた駐車場へ歩き出す。
「そう言えばお姉様、結局何処に行ってたの?」
「中森警部の娘さん達と、近くの公園に行っていたのよ。」
近くの公園…?と一瞬考えた蘭は、ふと思い当たる記憶に気付く。
「その公園って、もしかしてこの前の事件の所じゃ…。」
「えぇ、動物虐待の事件でしょう?その公園だけど大丈夫、犯人はもう警察に捕まったもの。」
「!!」
実紗稀の答えに園子と蘭は普通に会話を進めるが、コナンだけは難しい顔をして実紗稀の事を見上げる。
(おかしい…実紗稀さんはおっちゃんの事を知っているかと聞かれた時に、最近の日本の話題を知らないと言っていた。なのに何故その事件の事は知っているんだ?大体、それならキッドの事だって知らない筈だ。どうして捕まえようなんて思い立ったんだ…?)
ーー敢えて言うのなら…世の中に退屈していた私の、興味を引き出されたから……とでもお答えしておきます
思い出されるのは、実紗稀が中森から受けた質問の答え。
(この人の真意は、一体…)
update 2016.9.10