どうか仮面を剥ぎ取って



persona.6







ふと目を覚ました莉亜が時計に目をやると、針はほぼ真下の6時半を指している。
ボーッとした頭を何とか働かせると、少しの間を置いてから目を瞬かせた。


(怪盗さんが来たのは7時過ぎてたはず……って事は、朝?!)


改めて現状を整理して気付いた事実に、莉亜は慌ててベッドを飛び出すと、窓際に駆け寄り遮光カーテンを思い切り開け、眩しさに目を細める。
差し込んでくる光は紛れもなく朝日だ。


「………………あ、片付け!」


あまりの事態に言葉を失っていると、昨日食事の途中だった事を思い出す。
リビングへと続く扉を抜けると、並んでいたはずの皿達の姿はなく、1枚の紙だけがテーブルの上に置かれていた。



『気持ち良さそうに寝てっから片付けて帰るぜ
 余ったのはテキトーにタッパーに詰めておいた
 つーわけで、少し棚とか漁ったけど許せよな?』



最後にキッドマークの書かれた置き手紙の文字は少し雑で、しかし決して下手ではなく読みやすい。


(男の子……って感じ)


もう一度内容に目を通すと、ゆったりとした動きでキッチンへと向かう。
冷蔵庫の中を確認すると、保存の効く物は全てタッパーに入れてくれたのが分かる。
天下の大泥棒がそんな事をしているのを想像すると何だか笑えてくるが、ふと何か違和感を感じた。


(……あまり食べてない?)


普段は沢山作っても余裕で2人で食べきるのだが、残っているのはいつも自分が食べる量より遥かに多い。
調子が悪いような様子はなかったはず……とも思ったが、昨日は眠くてボーッとしていたから気付かなかったのかもしれない。
心配に思いつつも、こちらから連絡を取る術は何もない。
きっと1人で食べるのは気が進まなかっただけだ、そう無理矢理納得して、莉亜は学校の準備を始めた。










「これ、ありがとう」

「もう読んだのかよ?これ結構な長編だぜ……?」


登校中、いつも通り合流した子供達と少し距離が空いた所で借りていた本を渡すと、驚いた様子でコナンは受け取った。


「えぇ、面白かったからつい。お陰で寝不足だわ。本当は昨日の朝読み終わってたけど、読み直したい所もあってね」

「……俺より読むの早ぇんじゃねえか?」

「それは出来れば否定したい所ね。それより、昨日は例の怪盗さんと勝負だったんでしょう?どうだったの?」


いつもはキッド本人からある程度話は聞いているが、今回は寝てしまった為に何も知らない。
そんな莉亜の質問に、コナンは訝しげな表情を浮かべた。


「お前からキッドについて聞かれるなんて珍しいな?」

「そう?いつも私が聞く前に貴方が話すだけでしょう?」

「それはそうだけどよ……」


いまいち煮え切らない返事に、莉亜は内心、少し失敗したかと思いながらも平静を装う。


「もう習慣の様なものね。毎回毎回聞かされていれば、私だって少しは気にするようにもなるわ」

「……」

「言っておくけど、別に文句を言ってる訳じゃないわよ?私はそういう話もホームズの話も、聞くのが苦痛だなんて思った事ないもの」

「……そうかよ」


素っ気ない返事で隠してはいるが、照れているのが分かった莉亜はそっと笑った。










江古田高校の2年B組の教室。
窓際の席で外を眺める快斗は目の前で名前を呼ぶ教師に全く気付く事無く、一点を見つめていた。


──バシッ!!


「ってえ!!何すんだ青子!!」


突然後ろから何かで頭を叩かれた快斗が、驚いて後ろの席の青子に振り向いて大声を出すと、呆れた顔で前……快斗の後ろを指差す。

何だよ……とゆっくりと振り返ると、漸く目の前に立っている教師の存在に気付き顔をひきつらせた。


「黒羽……俺を堂々と無視するとは、良い度胸してるじゃないか」

「あーいや……別に無視したワケじゃ……」

「授業が終わったら、俺の所に来い」


低い声で言い放った教師の後ろに、黒い影が見えた気がした。










「快斗、早かったね?」

「あぁ明日1日、色々手伝わされるけどな……」


放課後、職員室から戻った快斗に青子が意外そうに話し掛けると、不満そうな表情で自分の席に腰を降ろす。


「ねぇ、何かあったの?いくら快斗でも、流石にあそこまでボーッとしてるなんて珍しいよね?」

「別に、何でもねえよ」


それが嘘だと分かった青子も、話す気がまるで無い様子に一瞬心配そうな視線を向け、すぐに帰ろっか、と笑顔を向けた。





並んで歩きながら青子が一方的に話しかけてくる内容に適当に相槌を打ちつつ、快斗は莉亜の寝室で見た写真を思い出していた。


(あの写真に写ってた4人のうち3人は、鈴木財閥のお嬢様と探偵事務所の蘭って子……。そして、工藤新一に間違いない……)


自分によく似たあの顔を、間違える筈がない。
そう考えてすぐに浮かぶのは、有名な高校生探偵の、今の姿。


(莉亜は、名探偵と“幼なじみ”だと言った。あの時感じた違和感は、コレだったって事か……)


何度考えても変わらない答えに、さてどうしようかと考え込む。


(気付いたと、言うべきか……言わないべきか……)


いや、と快斗は立ち止まり空を仰ぐ。


「俺が、どうしたいか……だな」


update 2021.7.10
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