「あの……?」
「え?……あぁ悪ぃ」
遠慮がちに声を掛けてくる少女に、我に返った快斗はボールを渡す。
「ありがとうございます。えっと……すみませんでした」
「あ……いや、気にすんな」
ぺこりと頭を下げてから公園内に戻って行くその姿を、快斗はジッと見つめる。
(……莉亜、だよな?昨日の雰囲気とはどっちとも違ってるけど……)
「まりあ!大丈夫だったか?」
「うん、拾ってもらったから」
(名探偵?!)
聞こえた声に目を凝らすと、そこに居たのは江戸川コナンと、何度か見かけている少年探偵団の子供達。
確か昨日、莉亜が言っていた筈だ。
“あいつとは幼なじみ”なのだと。
(やっぱり莉亜だ。でも“まりあ”って──一体いくつ仮面持ってんだよ……)
persona.5
「怪盗さん、いらっしゃい!もう最高のタイミングだねっ!丁度ミートパイが焼けた所なの!」
約束の日、仕事を終えたキッドが莉亜の部屋のベランダに降り立ちガラス窓をノックすると、待ってましたと言わんばかりの勢いで窓を開いた莉亜は、とても嬉しそうにそう言った。
「随分とご機嫌だな?」
「誰かさんのせいでね」
グッと口角を上げて見上げてくる莉亜にキッドは一瞬呆気に取られるが、すぐに同じく笑みを浮かべる。
「へぇ。そんなに俺に会いたかったんだ?」
「なっ!何言ってるの?!」
「さっき自分で言ったじゃねえか」
あっと言う間に顔を赤くする莉亜に笑いながらそう言うと、クルッと背を向けてしまう。
「り、料理するの、好きだけど……自分の分だけじゃ楽しくないし……誰かの為に作るのが久しぶりで、嬉しかっただけ……」
「つまり、俺の為に料理作ってご機嫌になってくれてたんだろ?」
クスクスと笑いながら言うキッドに、結構性格悪いよね……、と小さく呟くが、そうか?と軽く返されただけだった。
既に並べられた物に加えて、温かいものを何品か運ぶと、テーブルの上は豪華な食卓となった。
「すげぇな、こんなに作ってくれたのか!」
「久しぶりだから気合い入っちゃって。でも、この前の様子だとこの位食べられるでしょ?」
「おう、余裕だぜ」
シルクハットと上着を脱いだ格好で喜んで食べている姿は、世間を賑わせている怪盗のイメージなど何処にも無く、莉亜は小さく笑う。
「ん?どうした?」
「いや、相変わらず美味しそうに食べてくれるなと思って」
「……やっぱ、その笑顔が一番だな」
声が小さくて聞き取れなかったキッドの言葉に莉亜が聞き返すが、何でもないとはぐらかされてしまった。
それからキッドは仕事の度に莉亜の部屋を訪れ、一緒に食事をして、片付けと何か手伝える事をしてから帰るのが通例となっていた。
仕事が決まると莉亜の家にもその旨を伝える予告状を送り、準備して貰っている。
2人で話すのは専らキッドの仕事の話ばかり。
今回はどういうトリックを使ったかや、こんな仕掛けが用意されていたなど。
たまに莉亜が、コナンと共に事件に遭遇した時の話をして、危ない目に合わないように注意する様な事がある位だ。
以前公園で見掛けた“まりあ”の事は、一度も話していない。
気になってはいるが、自分に向けてくれるこの笑顔を失いたくないという思いから、いつも言葉を飲み込むばかりだった。
「今日はやけに眠そうだな?」
「昨日、借りた小説にハマっちゃって……寝るの遅くなっちゃったの……」
いつもと同じく食事を始めたものの、何やらボーッとした様子で箸も進んでいない莉亜は、そう答えてから我慢出来ずに欠伸をする。
「片付けは俺がしておくから、無理しなくて良いぜ?」
「んー……でも、怪盗さんが帰る前に寝たら、もったいない……」
「もったいない?」
聞き返したキッドに、莉亜はうつらうつらしながらも答えようとする。
「怪盗さんと……居られる時間は、少ないから……」
「っ!」
予想外の言葉にキッドは思わず息を飲んだ。
(いや、莉亜が言ったのはそういう意味じゃなくて!……ってそういう意味って何だよ!……………俺、ロリコンじゃねぇよな?)
莉亜から顔を背けて自問自答していると、微かに何かが聞こえた気がして振り返る。
(………寝てる?)
睡魔との闘いに負けてしまったらしい莉亜は、ソファの背もたれに頭を預けて小さく寝息を立てている。
その姿にフッと優しい笑みを浮かべたキッドは、起こさないように気を付けながらそっと抱き上げた。
(確かこの部屋が寝室のはず……)
何度も上がってはいるが、当然全ての部屋に入った事がある訳ではない。
以前そこが寝室だと言っていたのを思い出し、勝手に入る事に若干の申し訳なさを感じつつ扉を開ける。
開いた扉から光が入り込むと、中にはダブルサイズのベッドが置いてあるのが見えた。
(小学生でダブルって……デカすぎだろ……)
そう心の中でため息をついてから、その高級そうなベッドに寝かせ、ふわりと布団を掛ける。
(……ん?)
ふと莉亜の頭上の棚に目が行くと、キッドは洒落た電気スタンドの奥に飾られた写真立ての存在に気付いた。
(え……これって、まさか──)
大きく目を見開いたキッドの視線の先では、“帝丹高校入学式”という立て看板のある校門を背に寄り添う女子3人と、共に並ぶ男子1人の姿が写っていた。
update 2019.10.20