「いーなぁ、行ってみたい…。」
「行ってみたいって、何処に?」
「っ!?」
教室のいつもの席。
携帯の画面を見ながら一人呟いた所で、突然耳元から聞こえた声に驚き振り返ると、目の前に現れたのは見慣れた顔。
「し、新一!てか、顔近いってば…!」
「いい加減慣れろって。んで、何処行きたいんだよ?」
「えっ…あ、これは新一には関係ないから!」
顔を真っ赤に染める様子に新一も僅かに頬を染めながらそう言うと、名前は慌てて立ち上がり蘭と園子の元へ駆けて行った。
「ちょっと名前、新一くんがビックリした顔してこっち見てるんだけど…。」
「どうかしたの?」
突然駆け寄って来たと思うと机に両手をついて下を向く名前に、園子と蘭は不思議そうに問い掛ける。
「し、心臓持たない…。」
「いや、あんたが恥ずかしがり屋なのは知ってるけど、いつもは顔真っ赤にしながらも新一くんとじゃれてて、逃げては来ないじゃない。」
「それは……これ、見られそうだったんだもん。」
未だ赤い顔をしながら手元の携帯の画面を2人に向ける。
「ケーキ食べ放題?」
「何でこれを見られちゃ困る訳?」
「新一、甘いもの嫌いでしょ?こんなの行きたいって思ってるって知ったら悪いじゃん…。」
見るからにショボンとして、耳があったら垂れていそうな様子で名前はボソッと言う。
「どうして?行きたいと思ってる位……あぁ、そういう事ね。」
「蘭?」
名前から受け取った携帯の画面を見ていた蘭の言葉に、園子がそちらを向くと、その画面を園子の方に向けて来る。
「……ははーん。あんたこの“カップル限定ケーキ”に惹かれた訳だ。」
店のサイトに書かれた“Xmasはカップル様限定ケーキ登場!”の文字に気付いた2人は、ニヤニヤしながら名前を見つめる。
「でも、そんな所に新一連れて行く訳にいかないもん。只でさえ女の子ばかりの店なのに。」
「名前は物分かり良過ぎよ。たまにはワガママ言って良いと思うけど。」
「そーそー!少しは振り回してやりなさい!」
「そんな事言われても…。」
困ったように眉を下げる名前を見て、園子はふと気付いたように口を開く。
「ていうか名前、まだ顔赤いじゃない。話戻るけど…あんた、新一くんと付き合ってもう4ヶ月でしょ?そこまで過剰に反応する事ないじゃない。」
呆れたように言う園子に、名前は再び顔を赤くする。
「だって!顔…近いし……恥ずかしいじゃん。」
言いながら小さくなる声と共に頭も下がっていく様子に、園子は呆れた目で名前を見る。
「顔が近いって……キスしたらもっと近いんだから、それに比べたら平気でしょうが!」
「っ!!」
“キス”という単語にビクッと反応したかと思うと、名前はそのままズルズルとしゃがみ込み机に顔を伏せる。
その様子に園子と顔を見合わせてから、蘭がそっと問い掛ける。
「名前、もしかして新一とまだ…?」
「……。」
無言のままコクリと頷く名前に、蘭と園子は再び顔を見合わせる。
「な…何だ、新一くんってば名前の事大事にし過ぎよね!」
「そうそう、名前が可愛くて逆に手が出せないのよ!」
「違うの。」
慌ててフォローする2人にそう言うと、名前は小さな声で喋り出す。
「付き合い始めの頃、そういう雰囲気になった事があって…その時、私があまりにもガチガチに緊張してたせいで新一が気を使ってくれて…。“気にするな”って言ってくれたけど、私きっと新一を傷つけたよね…。」
「名前…。」
「……あんた、イヴは新一くんとデートなんでしょ?」
「うん、学校の後にそのまま出掛けるけど…。」
「だったら、その日がチャンス!男だってキッカケがあった方が行動しやすいんだから、プレゼント渡した時とかに良い雰囲気に持ってくのよ!」
園子が自身満々にそう言うが、名前の表情は変わらない。
「…どうやって?」
「それは…」
「園子、変な事言わないで!名前は自分に素直に居れば大丈夫よ。自然体が一番!ね?」
園子の言葉を遮っていう蘭に、名前はありがと蘭、と少し微笑んだ。