「名前、行くぞ。」

「うんっ。蘭、園子、待たね!」


24日の終業式を終えた後、2人に笑顔で見送られ教室を後にした名前は、新一と並んで米花駅方面へと歩いて行く。


「ねぇ新一、何処に行くか教えてくれないの?」

「おう。着いてからのお楽しみってヤツだな。」


そう笑ってから目の前に出してくる新一の手を、名前は不思議そうに見つめる。


「手。」

「あ!……うん。」


真っ赤な顔をしながら自分の手に重ねてくる小さな手をきゅっと握ると、一瞬目を見開いてからフニャッと笑う名前の様子に、新一は満足そうに微笑んで歩き出した。

クリスマスイヴなのもあり人で賑わう街の中を、迷いもなく進む新一。
その足がとある地下への階段に向いた時、名前は驚いて握った新一の手を引っ張った。


「し、新一?此処……。」

「良いから。」


ニッと笑う新一に手を引かれるままに階段を下り始めるが、名前は戸惑いを隠せない。
来たことは無いが、この地下には1件しか店はないはず。それに、階段の途中まで続いている長い行列があるのに、その横をスイスイと進む新一の手をもう一度引っ張る。


「ねぇ、列出来てるよ?」

「だから大丈夫だって。」


同じ笑顔でそう言われた名前は、戸惑いながらも着いて行くしかなくなる。
時々並んでいる人からの視線を感じながら、ついに最前列も通り過ぎて店の入り口をくぐる。


「すみません、予約した工藤ですが…。」

「いらっしゃいませ。工藤様ですね?少々お待ち下さい。」

「え、予約?」


いつも凄い行列が出来るこの店は、予約は受け付けていなかったのではないか?
そう考えている内に、何かの紙を確認した店員がメニューを手に取り、席へと案内してくれる。

広いフロアに所狭しと置かれたテーブルには女性客がひしめき合い、キャーキャーと女子トークを弾ませている。
その横を通り過ぎ一番奥まで行くと、フロアとは壁で遮られた個室に通される。フロアの席と違い、少しゆったりとしたスペースのそこには、注文用と思われるディスプレイも置かれている。


「当店をご利用された事はございますか?」

「いえ、初めてです。」


勧められるままに席に座ったものの、未だに戸惑いを隠せない名前とは裏腹に、新一は落ち着いて店員に受け答えしている。


「当店では通常、お客様ご自身で取りに行って頂くビュッフェタイプのシステムとなっておりますが、こちらのお席では、そちらのディスプレイ端末からご注文頂き店員がお持ち致します。数の制限はもちろんございませんので、遠慮なくどんどんご注文下さい。」

「ありがとうございます。」


一礼して店員が出て行くと、目の前で固まっている名前に新一は笑う。


「ビックリしたか?」

「ビックリするよ!だって、予約って…それにこの部屋……ていうか新一、こんな…“ケーキ食べ放題”の店なんて苦痛なんじゃ…」

「取りあえず落ち着けって。これ見てみな。」


変わらず笑いながら新一が見せてくる携帯を受け取り画面を覗き込むと、数日前に自分が新一から隠した、この店のサイトが表示されている。


「その下の方、“男性必見企画”ってあるだろ?そこ開いて。」

「うん…。」


“男性向け”という自分には関係ない単語から無意識にスルーしていたのか、そんなページがある事に全く気付かなかった名前は、新一に言われた通りそのページを開く。


「…12月24日と25日は男性必見の特別企画開催……甘いものが苦手な方も来店して頂きやすい様、ほろ苦スイーツや普段種類の少ないパスタやサンドイッチ等のメニューも豊富に準備………さらに、カップルでご来店の男性からの申し込みに限り…特別個室の、予約受付が可能…周りの視線も気になりません…」


口に出しながら読んだ名前は、顔を上げて新一を見つめる。


「そういう事。だから俺の事は気にせず、好きなモン食えよ。」

「うん!ありがとう新一っ!!」


満面の笑みを見せる名前に、新一は満足そうな顔をすると、ディスプレイを操作して食べたい物を聞きながら次々と注文した。


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