誰も居なくなった放課後の教室、ヘッドホンをして大好きなバンドの曲を流しながら、名前はプリントを1枚ずつ集めてはホチキスで止めるという作業を繰り返していた。
「名前ちゃん。………おーい。」
名前の後ろから話し掛ける人物は、何の反応もしない名前の様子に一瞬きょとんとすると、ニッとイタズラな笑みを浮かべながら、彼女の耳元へ手を伸ばす。
「名前ちゃーん!!!」
「うわっ!?」
突然ヘッドホンを外され、大声を出された名前は、全身でビクッと驚いてから後ろを振り返る。
「く、黒羽くん?…びっくりしたぁー。」
「名前ちゃん、全然気付かねーんだもん。」
「まぁ曲聞いてたし、集中してたし…?」
そう言って指差した先には、先程から作業を続けているプリントの束。
「あー先生もひでぇよな、1人に押し付けるなんて。」
「ん?でも私、こういう地味な作業嫌いじゃないよ。」
「へぇ。…よし、俺も手伝うぜ!」
「え?!いや悪いよ!もう残りもそんな多くないし…」
少し焦ったように言う名前の事は気にせず、快斗は既にプリントに手を伸ばしている。
(参ったな……2人きりとか、こんな展開想像もしてなかった…)
「どうした?さっさと終わらせようぜ!」
「あ…うん!」
ニッと笑う快斗の顔をまともに見れないまま名前も作業に戻った。
「2人でやっても何だかんだ30分掛かっちまったなー。これ、職員室持ってくのか?」
「ううん、教壇に置いとけば良いって。」
じゃあ帰るか!と言って鞄を持つ快斗に一歩遅れて名前が鞄に手を伸ばすと、外ポケットに入れた携帯の着信ランプが、メールの着信を告げる青色に点滅している。
「せっかくだから…一緒に帰らねえ?」
「……ごめん、青子から買い物来てるから私も来なよってメール貰って…家と反対方向だから。」
「…そっか、じゃあ仕方ねえな!」
メールを読んでる間に言われた言葉に、ほんの僅かに間を空けて答えてから顔を上げると、丁度快斗がドアの方を向いた所だった。
一瞬見えた横顔が赤かったように見えたが、声のトーンはいつもと変わらない。夕日のせいかと一人納得して教室を出る快斗の後に続く。
「名前ちゃんさぁ…。」
靴に履き替えて昇降口を出た所で、急に立ち止まった快斗を不思議そうに見つめると、名前に背を向けたまま話し出す。
「クリスマスって、予定あんの?」
「え?クリスマスは、イヴに中学の時の友達と集まるけど…何で?」
「25日は?」
「何もない…けど……?」
質問に答えずさらに聞いてくる快斗の考えが見えず、名前が疑問符いっぱいに答えると、一瞬の静寂が流れた後、勢いよく振り返った。
「25日の午後3時、駅前の時計の所で待ち合わせ!」
「……え?!」
予想外の誘い、というより確定事項のように言う快斗に名前が目を見開く。
「もちろん嫌だったら来なくて良い。けど、俺は来るまで待ってるから…途中で気が向いたら、来て欲しいんだ。……じゃ、買い物気を付けて行けよ。」
言うだけ言って返事も聞かずに走り去る快斗の後ろ姿を見つめながら、名前は小さく声を漏らす。
「………行かないわけ、ないじゃん…。」