アズミがホグワーツに編入してから、早くも1ヶ月がたった。校舎はすっかり雪化粧が施されており、今ではローブを羽織っていても肌寒いくらいだ。そして今、アズミは初めての自由行動に喜びで胸を躍らせ、鼻歌を歌いながら廊下を歩いている。
リドルから四六時中一緒に行動するのをやめようと言われたのは今朝の朝食後だった。
「アズミが編入してもう一月ぐらいたったし、そろそろ教室の場所くらい覚えただろう?いつまでも僕が隣にいたら、アズミ1人で行動しなければならない時に困ってしまうかもしれないからさ」
まるで親離れを促すかのようなリドルの言い方に憤りを感じながらも、アズミはそれを了承した。
あの開心術のようなものを掛けられた日からリドルのアズミに向ける探るような視線がより露骨になったからだ。
優等生の建前を守るためにアズミと行動を共にすることはやめられず、それでも自室にいるとき以外は常に向けられるその視線に気を張って笑いつづけなければならないのはとても辛く、正直参ってきていた。
だから今、やっと訪れた解放の時に酔いしれていた。だからこそ気づかなかった。
目の前の曲がり角辺りから聞こえてくる急いだ足音に。
アズミが曲がり角を曲がろうとした時、目の前にポニーテールにされた綺麗なブロンドヘアーが現れる。女の子が、突然飛び出してきたのだ。そして、テンションがあがって冷静さを欠いていたアズミにそれを避ける術はない。
「きゃあっ!」
「痛っ!」
アズミは案の定思いっきり女の子とぶつかった。衝撃で2人とも床に倒れる。紙がばさばさと字面に落ちる音がした。
「痛い…何が起きたの?」
「あっ!ごご、ごめんなさい!」
床に座り込んだまま倒れる際に打ち付けてしまった右腕をさすっているアズミの前には、同じように床にぺたりと座る慌てた様子の女の子がいた。
おろおろと両手をさまよわせながら綺麗な青色の瞳を潤ませている少女を怒る趣味など、アズミは持ち合わせていない。今にも泣き出してしまいそうな女の子にアズミは優しく笑顔を浮かべた。
「別にどこも怪我してないし、そんなに謝らないで?」
「駄目だよ!!!」
「へ?」
「なんで許してしまうの!私、あなたに酷いことをしてしまいました…!こんなに綺麗な女の子を傷物に…!」
「えーっと…。だから、怪我はしてないから」
「見えない心の傷をつけてしまった!きっとこれから曲がり角をみる際に必ず今味わった痛みを思い出すことになる!ああ、私ってばなんてことを…!」
(…駄目だ、この子会話が通じない)
目の前で女の子がどんどんと独り言をヒートアップさせていく様子に、苦笑せざるを得ない。
これ以上この不思議少女に構っていたら授業に遅れてしまう、と判断してこっそり後ずさりしながら距離をとった。幸いなことに、頭を抱えて何かを呟き続けている少女にはアズミの姿は見えていないようだった。
ある程度距離をとったところで、目的地の教室に向かって走り出す。目的地である薬学教室に着いたのは授業開始の1分ほど前だった。どこに座ろうかと席を探していると、前の方の席にいたリドルが手招きをして隣に座らせてくれた。
「随分とぎりぎりの到着だね。やっぱりまだ1人での移動教室は辛かった?」
一見心配しているような口調だが、明らかに馬鹿にしている。
「いやぁ、ピーブズに会ってさ…。教室の場所自体はあってたんだけど」
「そうか、それは災難だったね」
廊下の曲がり角で謎の少女と正面衝突してしまって遅れたなんて言えるわけもない。
アズミを嘲笑うような態度を変えないリドルを無視しながら、まだ会ってもいないピーブズに罪をなすりつけることを心の中で謝って授業で使う大鍋の準備をした。
そしてその授業でついにリドルの手助けなしで、3年生レベルの薬を調合することに成功したのだった。