翌日、虹のお姫様が目を覚ましたと聞きつけた多くの生徒たちが、アズミの様子をみるために朝から保健室を訪れた。 そのため保健室は、マダムが怒って午後から面会謝絶状態にするほどの大騒ぎになってしまった。

顔も記憶に無いような人達ににこにこし続けることに疲れ、ぐったりとベットに体を預ける。サイドテーブルに溢れんばかりに置かれた花束やメッセージカード、お菓子などには苦笑いせざる負えない。

(新しい体になって魔法の才能を手に入れても、結局私は何も変われていないんだ)

中学生の頃に骨を折って入院して、病室いっぱいのお見舞い品に囲まれた記憶が蘇る。自分の意思よりも相手によく見られることを優先する生き方は、変わらずアズミに根付いているのだった。

加えて、リドルを改心させて未来の悲劇を防ぐと心決めたはいいが、未だに腹の探り合いをしているだけである。

アズミは相手に合わせすぎて今までに強い自分の意思を持って行動を起こしたことがなかったのだ。急にそれを変えることなど出来はしない。自身の行動力のなさや相手のことばかり優先してやりたいことを押さえ込む癖が浮き彫りになり、ため息をついた。

鬱々とした気持ちでサイドテーブルをみていると、お見舞い品の下に赤い石がきらりと光って見えた。手を伸ばしてそれを取る。それは倒れる前に手に持っていたあのネックレスである。

(どうしてあんなことが起こったの?まさかこのネックレスに魔法がかかってたとか?)

アズミは十字架を握り、燃えるように赤い石を窓から差し込む日の光に透かしてみる。しかし特別何かが起こることもなく、ネックレスはただのネックレスのままだ。

(まあ、偶然か。こっちに来てからの疲れが知らない間に溜まってたのかも)

ネックレスをまたサイドテーブルに戻して、お見舞い品の中にあった本を適当に引き抜いた。

「うわぁ…」

本のタイトルは『魔法界で起きた様々な革命』。魔法史の本である。

読むのは億劫だったが暇だったので嫌々表紙を開くと、中から挟まれていたであろうメモ書きのような手紙がひらりと太ももあたりに落ちた。ひょいとそれをつまみあげ目を通す。

読み終えたところで、アズミは眉を顰めて苦い顔をした。

『体調はどうかな?保健室で退屈しないように、君の部屋に置いてあった本を1冊持ってきたよ。退院したら1章の範囲でテストを行うつもりだから頑張って。時間が沢山あるだろうからいい結果が出るだろうと期待してるよ。リドル』

手の中でくしゃりとメモに皺が寄る。

「あんの腹黒陰険偽者優等生め!」

ある意味リドルの本性を引っ張り出せてるんじゃないだろうか、と思い始めた昼下がり。

退院まであと数時間。そう思いながらアズミは乱暴に本を開いて黙々と暗記を始めた。

***

「…すごい。よく覚えてきたね」

「すっごい頑張ったよ!」


スリザリンの談話室で魔法史の小テストをする2人の周りには誰もいない。就寝時刻が刻一刻と迫って来ているからだ。リドルの驚きに満ちた呟きは談話室にひっそりと響いた。

アズミはあのメモを読んだ後で教科書を読み始めて、ふと違和感を感じた。異様なまでに単語という単語が頭に染み渡るような感覚に襲われたのだ。そして範囲にすると言われていた1章を一通り読み終えた時に、すでにその全てが頭に入ってしまっていた。

にこにこと笑いながら、未だに驚き続けるリドルを見た。また馬鹿にできると信じていたに違いない。その間抜けな顔に笑いが止まらなかった。

「リドルってば、そんな顔してどうしたの?」

「いや、なんでもないよ…。よく頑張ったねアズミ」

その時のリドルの悔しそうな表情は最高で、アズミは生まれて初めて腹を抱えて笑ってしまいたいと思った。

そして自室に戻ってからその欲求に応えるためにリドルの顔を思い出しながら大笑いした後、ベットに飛び込んでシャツの上からネックレスを握り締めた。

「絶対あれのおかげだ…!」

倒れる前にした神に祈る真似事。きっとそれの効果に違いない。

アズミは全てを一瞬で暗記できる体になったのだ。

「これもトリップ特典みたいなものなのかな?」

願いを叶える力…、とでもいうのだろうか。その度に毎度毎度激しい苦しみに襲われて眠りこけてしまうのかもしれないというのは憂鬱だが、それでも凄い力であることには変わりないだろう。まだまだ実験してみないことにはわからないことだらけだが、リドルを改心させるためには間違いなく使えるはずだ。

こうしてアズミは七色の瞳に次ぐ、自身にもたらされた異質さに気づいたのだった。

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