全身が水に包まれるような感覚がする。ゆらりゆらりと不安定な体が漂う。
起きなきゃ。そう思って、重く感じる瞼を開けた。
目の前に見えたのは、見慣れない真っ白な石造りの天井だった。
「こ…こは?」
口から出たいつもより掠れた自分の声を聞いて少し驚く。しかし、横にいた金髪と銀髪の少女たちのほうが声を出した本人よりも大きく驚いた。
「アズミ!気がついたの!?」
「心配しましたよアズミ!カナリア、早くマダムをお呼びしてください!」
「アズミ!アズミ!!アズミ〜!!!」
「カナリア!早くしなさい!」
「エミリアが行けばいいでしょ!?」
「もう!じゃあ私が呼んできますから大人しくしててくださいね!」
エミリアはカナリアに大人しくしていろと何度も言い聞かせて、ベットから離れていく。アズミは体に力が入らず、その様子を眺めることしかできなかった。何も言わずにぼんやりとしていると、カナリアが顔を覗き込んでくる。
「アズミ、大丈夫なの?」
「うーん…どうなんだろう。というか今の状況がよくわからないんだけど、教えてくれないかな?」
最後の意識に残っているのは、頭が割れるような痛みと全身を襲う痺れだ。聞けばここは医務室らしいのだが、何故医務室にいるのか全くわからないままである。
「あの日ご飯の時間になっても大広間にアズミが来なかったから、心配して私とエミリアであなたの部屋を見に行ったんだ。そしたら真っ青な顔をして息の浅くなってるアズミが倒れてて…。2人で急いで保健室に連れていったよ。マダムに聞いたらただの睡眠状態だって言ったけど呼びかけても揺すっても全然起きなくてそのまま今まで3日間眠ったままだったんだよ!」
「3日!?」
ちょっと気絶しただけかと思っていたため、その日数には驚きを隠せない。体の異常なだるさは寝すぎたことが原因のようだった。
「そうだよ!このまま眠り続けるんじゃないかって心配したんよ!」
カナリアはアズミの手をそっと握って涙目でそう言った。本当に心配そうに語る姿に申し訳なくなった。
「ごめんね、心配かけて…」
「本当だよ!虹のお姫様じゃなくて眠り姫なんじゃないかって思ったら気が気じゃなくって!」
「え?」
気絶した影響で耳がいかれてしまったのだろうか。
「え?あの」
「でもやっぱり眠り姫じゃなくて虹のお姫様だったね!」
満面の笑みでそう言ったカナリアに、アズミは何も返すことができなかった。やっぱりカナリアはカナリアだった。
その後もお姫様お姫様と語り続けたカナリアは、駆けつけたマダムに怒鳴られ、エミリアに首根っこを掴まれながら保健室から出ていった。マダムはまだ騒がしくしていたカナリアに怒りつつも、アズミの体に異常がないか確かめていた。
「エノモトは念の為にあと1日入院しなさい」
「はい、マダム」
マダムが色々と体を調べたが、寝すぎたぶんのだるさがある以外は健康体と変わりなかった。それでも万が一のため、ということだろう。
検査のために起き上がっていたため、ベットに横になり目を閉じる。3日間も寝続けていたらしいのに、あっという間に眠りに落ちた。