退院した次の日は、クリスマス休暇のために生徒たちが帰る日だった。
「では、本当に本当に学校に残るのですね?アズミ」
「もう…エミリアってば何回聞くの?私はホグワーツに残るよ」
アズミは家に帰るというエミリアとカナリアを駅まで見送りに来ている。そんな中、朝から列車に荷物を運んでいる今まで、そしてここ数日間、何回もエミリアは自分の家に遊びに来ないかと誘ってきていた。
「なんでエミリアはそんなに私を誘ってくれるの?」
いつもカナリアのストッパー役として控えめに落ち着いた雰囲気を醸し出す彼女の執拗な態度を、少し不思議に思った。エミリアはこちらの質問にため息をついて返す。
「クリスマスは私の家で大きなパーティーをするんです。それで、アズミを呼べばあなたのドレス姿が見られるかなって思ったんですよ」
「どうして私のドレス姿なんかが見たいの?」
「虹のお姫様の美しきドレス姿を見たくない人なんているわけないでしょー!私だって見たい見たい見たい!」
カナリアのおもちゃをねだる子供のような声が列車の中から聞こえてきた。エミリアはそういうことです、とアズミから視線を逸らして言う。
「自分で思っている以上にあなたは美しいです。1回だけでもいいから虹のお姫様を私の手で着飾らせてみたいと思うのは当たり前ですよ」
「私よりエミリアのが綺麗だよ?」
「過ぎたお世辞は人を傷つけるますよ、アズミ」
絶対にエミリアのが綺麗なのに、と思いつつも口に出すのをやめた。確かにアズミの新しい容姿は普通の人より整っていて、華やかさを持ち合わせている。それくらいは自覚しているつもりだ。といってもまだあまり見慣れない顔は自分の中では他人のものの様に認識されているので、自覚という言葉が正しいのかはわからないが。
恥ずかしいことを告白した、というような顔をしているエミリアに アズミは微笑みかけた。
「意外だね、エミリアもカナリアみたいなこと言うんだ」
「うるさいですよ」
「別に馬鹿にしてるわけじゃないよ。なんか褒めてもらって嬉しいな」
「それはよかったですね」
むくれるエミリアはこちらを横目に見ながら列車に乗り込んでいく。アズミはそんな彼女に言った。
「私を着飾らせるなら学校でもできるでしょ?2人が休暇から帰ってきたらいくらでも付き合うよ」
エミリアはその言葉に振り返る。
「約束ですよ」
「うん」
「もちろん私も混ぜてね!」
いつの間にかエミリアの横に現れたカナリアは目を輝かせて言った。
列車がゆっくりと地面からずれて走り出す。2人は窓からずっと手を振ってくれた。その姿が見えなくなったあと、首に巻いたマフラーに顔をうずめてホグワーツへ戻る。
ほとんど記憶にない、誰かからの誘いを断るという行為をできたことに少し喜びを感じながら軽やかに城へと歩みを進めるのだった。
(少しずつでもいいから変わるんだ私!)