「…、という事なんだけどわかったかい」
「うん。やっぱりリドルの説明が1番わかりやすいね。ありがとうリドル」
クリスマス休暇の午後、図書室にいるのはレイブンクローの7年生数人くらいしかいない。その中スリザリン5年生の2人は、入り組んだ道を進んだ図書室の最深部といっても過言ではないところで勉強に励んでいた。
勉強会を開き始めて約1時間半。リドルは昨日のことがなかったかのようにいつも通りだった。それがひどく不気味だったが、ネックレスの力を信頼するアズミはそれを無視して、ここぞとばかりに考えてきた難しい質問をリドルに聞き続けていた。ユニコーンのレポートで困っているというのは事実なのだから。
リドルはアズミの持ってきた本の挿し絵を長い指で指す。
「ねえアズミ、知ってるかい?ユニコーンの血には命を長らえさせる効果があるらしいよ」
にっこりと笑って聞いてきたリドルに、寒気がした。
(ユニコーンの血…。ついに仕掛けてきたか)
賢者の石でユニコーンの血を啜って生き延びていたあのヴォルデモートが頭をよぎる。これは勉強会はもうやめだ、というサインと受け取ってもいいだろう。
アズミの口は、頭で何を言うか考える前に勝手に動いていた。
「ああ、何かの文献で読んだよ。なんだったかな…」
「最近異様に記憶力がよくなったみたいなのに思い出せないんだ?」
リドルの目が赤く光る。素知らぬ振りで、アズミはリドルが指さすものとは違う本を開いた。
「あれはこの前倒れてからなの。多分それより前に読んだと思うから思い出せそうにないなぁ」
「この前ってあの3日間謎の意識不明状態になった時のことか?」
「そう。もしかしたら倒れた時に頭でも強く打ったのかもね。感謝しなきゃ」
「倒れて頭を打つだけで記憶力がよくなるなんて聞いたことがない。何を隠してる」
「何にも。というか、口調が素に戻ってるよ優等生さん」
アズミがそう指摘すると、リドルは悔しそうに眉間に皺を寄せて、瞳から赤を消した。ああ、この様子だと、ちゃんと願い事が叶っているみたいだ。
リドルはイライラするように本を指でこつこつと叩く。
「君はいつもそうだな。のらりくらりと僕の言葉を躱してばかりで、君の正体は1ミリも掴めない。それに、素で話せと言ったのにそれに従う気もないのか?君から話そうと誘っておいて、その態度とはいい度胸だ」
(自分の言ったことに私が素直に従うと思ってたんだ…。この頃から俺様闇の帝王様!って感じなんだね…)
最早優等生をするのをやめ、揃えていた両足をゆっくりと組み、肘をついてリドルがこちらを睨むように見つめてくる。肩を竦める真似をして、開いていた本を閉じた。
「生憎だけど、これがリドルのお望みな私の素だよ。リドルみたいに素敵な裏の顔なんて持ち合わせてないし。それにおいそれとなんでも素性を話すような人はいないでしょ?謎が多い方がミステリアスで素敵!…なんてね」
「今まで通り笑顔を振りまいて、何が素だ。軽口こそ増えてるが、これじゃあ前と対して変わらない。それに昨日の君はそんなふうにへらへらしていなかった。あっちが素だろう」
「なんだ、やっぱり私がただのいい子ちゃんじゃないのわかってたんだ。なら1ミリくらいは私のこと掴めてるよ」
机を叩く大きな音が響く。リドルが思いきり拳を机を叩きつけたからだ。
「僕が言いたいのはそういうことじゃない!わかってるんだろう!この僕を馬鹿にするなんて、アズミじゃなければ殺してやるところだ!」
目が合うだけで殺せそうなほど鋭い眼光で射抜かれる。ちょっとだけネックレスの力を疑った。
「私のこと、殺さないんだ?」
「…ああ。僕は不確定なことが嫌いだ。君みたいな不確定要素の塊の正体を暴かないまま、馬鹿にされて腹が立ったからなんて理由で殺したら負けた気がする。負けることは不確定なことよりもずっと嫌いだ」
「ああ、じゃあ寿命をのばすためにも、もっとはぐらかさなきゃね」
そう言うと、リドルは腹立たしそうに舌打ちをした後に「望むところだ。すぐにでも化けの皮剥がしてやるからな」と吐き捨てるように言った。
その後も様々な方向からアズミを探ろうとするリドルを、軽口を挟みながらひょいひょいと躱していった。そうして、体への負担こそ大きいものの、ネックレスの力の偉大さを改めて実感するのである。