年も明けたある日、談話室でアズミはリドルの前で両手をあわせてお願いポーズをとっていた。
「リドル、私と決闘して」
「は?」
リドルは本を読む手を止め、ぽかんと口をあけて固まる。アズミがお願いします、と日本式に頭を下げながら懇願する方法に切り替えれば、いよいよ理由を問われた。アズミは、大きく息を吸って一息に答える。
「だってこのクリスマス休暇中、全く攻撃魔法も防御魔法も使ってないんだよ?闇の魔術に対する防衛術は苦手じゃないけど、変身術ほどずば抜けて得意なわけじゃないでしょ?休暇明けからは自力でちゃんと授業を受けられるようになりたいんだ。あと決闘ってのは言葉の綾だから。うん、とりあえず私に実技訓練してください!」
「それでも普通の人から考えれば上達率は凄まじいし、その精度も威力も比べ物にならないぐらい高い。アズミの変身術の技術は言いたくないが僕よりも上だろうし、そこらの教師じゃ太刀打ちできないようなレベルだ。それとDADAを比較するな。あと僕なしで授業を受けたいってのは僕が邪魔って意味か?場合によっては2度と日を拝めなくしてやる」
…倍の量で言い返された。あと途中から目がちらちら赤くなっている。アズミはそれに気がついて後ずさりたくなったが、それでも譲るわけにはいかなかった。
やはり、会話という浅い関わり方でリドルを改心させるといった考えでは甘すぎるのだろうかと最近思うようになった。彼の裏の顔、闇の部分まで突っ込んでいく必要もあると思うようになったのだ。だが、もしそれを失敗すれば攻撃されるようなこともあるかもしれない。実力行使をしなくてはいけないような事態に追い込まれることも可能性としてあるだろう。
それならばある程度、いやもっと高い戦闘能力が必要だと判断したのだ。しかし特訓しようにも、教授の方々に『魔法の戦闘訓練してください』なんて理由もなしに頼めない。そして至った結論が、リドルに付き合ってもらおう、だった。
(戦うことになるだろう相手に戦闘訓練を頼むなんて滑稽極まりないけどさ)
「お願い、リドル」
「嫌だね」
彼はもう本に目を戻している。引き受ける気は更々ないといった表情だ。
(…こうなったら最終手段を使うしかないか)
アズミはお願いお願い、と頼み続けるのをやめた。その様子に、リドルが横目でこちらを伺ってくる。そんな彼に対して、これ見よがしに大きくため息をつき、がっかりといった顔をしてみせた。
「リドルが練習に付き合ってくれないっていうならしょうがないよね、うん。…じゃあ私、ちょっとダンブルドア教授のところに行ってくるね」
「待て」
談話室を出ていこうとすると、アズミは左手首をリドルにガッと掴まれた。
計画通り、である。
「………はあ、わかったよ。付き合ってやる。ただし手は抜かない。いいな?」
「やった!ありがとうリドル!」
「この僕をいいように使うなんて…。何が他人に合わせて生きてるだ。やりたい放題じゃないか」
手元にある本を投げそうな顔でリドルがこちらを睨んでくる。アズミはにっこりと微笑みかけた。
「私が好き放題できるのはリドルの前でだけだよ」
「微塵も嬉しくないし腹が立つ」
「ひどい言い方だなあ」
リドルが吐き捨てるように言って舌打ちをする様に、クスクス笑う。機嫌は損ねたけれど、何とか訓練してくれるみたいだった。
さあ、闇の帝王の卵に教わる魔法訓練の始まりだ。