「それで…どこで練習するんだ?」
杖をローブから取り出したリドルは、軽く手首を回しながらアズミに聞いた。
杖を右手でくるくると遊ぶように回しながら、アズミは何かを企むようにニヤリと笑う。
「取っておきの場所、教えてあげる」
そういってアズミたちがやって来たのは、必要の部屋だった。
アズミが『決闘と実技魔法の訓練ができそうな部屋』と願いながらドアを開くと、そこには秘密の部屋で決闘クラブが活動した時ような部屋が広がっていた。後ろに立つリドルを振り返ると、とても驚いたような顔をして室内を見つめている。
「ここ、は…」
「あれ、もしかしてリドル知らなかった?この部屋。あれだけ夜中に寮抜け出して学校内歩き回ってるくせに」
「、何故それを知っている?」
「まあまあ、とりあえず入ろうよ」
立ちつくしているリドルの背を押して、部屋の中に押し込む。2人が中に入ると、ドアが勝手に閉まった。
「ここはね、自分の求める内装に変わってくれる部屋なんだ。だから私は必要の部屋、って呼んでる」
「それはいい、何故僕が寮を抜け出していることを知っている?」
やっぱり誤魔化されてはくれないらしい。リドルは酷く不機嫌そうだ。アズミは杖を軽く振る練習をしてみせながら答えた。
「結構前になかなか寝つけない夜があって、気分転換に深夜の談話室に降りてみたら、リドルが談話室から出ていく様子が見えて、ね。数回尾行したこともあるよ」
「まさか…後をつけられて僕が気づかないはずがない」
「私もそう思ってたんだけど、あれって気づいてて無視してたわけじゃなかったんだ」
そう言ってけたけたと笑うと、リドルは眉間に皺を寄せた。美形が台無しだよ、と言ってあげると目が真紅に染まる。そして、リドルは素早く杖を抜いてアズミの眉間の位置を刺すように突き出した。
「君の軽口はもういい、やるぞ。自分で言い出したんだ、決闘の仕方は覚えているな?」
その言葉に、アズミは目を瞬かせた。
「え?覚えているけど…まさか本当に決闘するの?」
「僕は、今から本気で君を殺すつもりで戦う。君に僕が訓練をつけてやる価値があることを、その腕で証明してみせろ」
リドルは舞台にあがり、射抜くような視線でこちらを見下ろす。アズミはぞくりと背筋に冷気が走るのを感じた。彼は、本気の目をしている。
「闇の魔術に対する防衛術で習うのは、対人戦闘目的の魔法だ。ただ、実際にそれらの魔法を本来の目的通りに使える魔法使いは多くない。授業のような戦闘のままごとで使えた魔法も、実際に本気で人に放とうと思ったら手が震えて使えなかったなんて話はざらにある。でもそれだと何の意味はない」
「まあ、そうだね」
「もし、君が人に本気で攻撃魔法が放てないような人間なら、訓練をしてやる意味はない。僕はそんな奴に興味はないし、割いてやる時間もありはしない」
アズミは心の中でああ、と詠嘆する。リドルは自分を見極めようとしているのだ。
『お前はどちら側の人間か』と。
やはり表向きにしつこく質問してこなかっただけで、こちらのことをだいぶ気にしているようだ。それでも、いつまでたってもアズミの正体を掴めないことから、この機会を利用して何かを探ろうとしているに違いない。
アズミは手の中の杖を強く握り締めた。
(…それでも、私はここからに逃げるわけにはいかない。絶対に)
固まりそうな足を奮い立たせて、一歩踏み出す。舞台の上にのって、リドルを正面から見つめた。アズミの瞳から決闘への意思を感じ取ったのか、リドルはわずかに口角をあげた。しかし、表情はすぐに無へ還る。
「使う魔法の種類は特に決めない。無言呪文も勿論ありだ。そして、決闘終了条件だが、どちらかが杖を手放した時点で終わりだ。ただし杖が手から離れるまでは絶対に終わらない。たとえアズミが倒れようと、舞台から落ちようと、杖を握っていれば続行する。いいな?」
「了解」
声が震えないかが心配だったのだが、とうやら杞憂のようだった。やけに凛として口からこぼれ出た己の声に、アズミはわずかに驚く。それでも、そんな様子は全て心の内にしまいこんで、真っ直ぐにリドルを見る。彼の瞳もまた、揺れることなくこちらを射抜くように真っ直ぐだ。本気の目だった。
そうだ。あのリドルが殺すつもりでやるといっているのだ。本当にそのつもりで攻撃してくるに違いない。リドルの視線でそうわかったというはずなのに、アズミの中から不思議と恐怖は消えていた。
舞台にあがった途端、心は一気に切り替わった。今胸にあるのは、闘争心だけである。
胸の前に杖を持ち、そして下ろす。互いに目で合図をして同時にお辞儀をした。アズミもリドルも相手から目を逸らさないよう、軽く頭を下げるだけである。
リドルに背を向けて一歩ずつ踏みしめるように歩く。そして振り返った。
「「エクスペリアームス!」」
目も眩むような紅の閃光が全く同じタイミングで飛び出し、ぶつかりあった。