のどかなお昼下がり。それでもイギリスの空は雲に覆われてしまい、日差しはない。今日もしんしんと雪が降り積もる。
そんな白に覆われたホグワーツの中庭に1つの黒がぽつんと浮かんでいる。
「何をしているんだい、アズミ」
この休暇中で飽きるほど聞いた声に、アズミは振り返った。そうすへば、マフラーを巻いて寒々しそうに廊下からこちらを見ているリドルと目が合った。公共の場ということで声色こそ優等生のものだったが、その目はいつもの冷めたものだった。持ち物からして、図書室で勉強をした帰りだろうか。
アズミは軽く手を振った。
「御機嫌よう、リドル」
笑って挨拶をすると、リドルは眉をぴくっと震わせた後、雪を踏みしめながら近寄ってくる。何やら不機嫌そうだ。白い息を吐く彼の頭に、少し雪が降り積もる。他に聞こえないよう潜めた声で、リドルが言った。
「何が御機嫌ようだ、君のそのキャラはなんとかならないのか」
「キャラって、この謎の優等生キャラのこと?もうこれは癖なんだけど…」
「御託はいい。とりあえず、こんなところで何をしてる」
「え、何もしてないよ?」
そう言えば、リドルは腹立たしげに目を細めてこちらを見てくる。ふと思い返せば、リドルはアズミの前であるといつも眉間に皺を寄せている気がした。
「こんな雪の中で立ってるなんて他人が見たらどう思うか。君の外面に傷がつくんじゃないか?」
「だよね。……うん、心配してくれてありがとう」
「心配なんかしてない」
そう言い捨てると「早く戻るぞ」と付け加えてリドルが踵を返して歩き出す。彼の歩幅は広いので、あっという間に降り注ぐ雪の中に消えて行ってしまった。
「んー、まあ素直に戻ろうかな」
一歩歩けばくるぶしまで埋もれるような道を進む。防水呪文と防寒呪文をかけているので冷たくも寒くもないが、やはりこの寒さは体によくないだろう。
アズミが廊下まで戻れば、リドルが雪を払ってこちらを待っていた。彼の顔には、もう笑顔の仮面が被り直されてる。なのでこちらもそれに倣った。
「待っててくれたんだ、ありがとう」
「気にしなくていいよそんなこと。それより早く寮に戻ろうか。体が冷えてしまうよ」
何よりここでは話しにくいし、とは思っていても言わない。
「そうだね、風邪はひきたくないよ」
「明日からまた学校が始まるからね」
「…うん」
そう、今日はクリスマス休暇の最終日。授業が始まれば休暇中ほど話すことは出来なくなってしまうだろう。
(ちょっと仲良くなれたけど、目標まではまだ遠い、か…)
結局リドルが本当の意味で心変わりした兆候はない。まだアズミは何もできていないままだった。色々と大胆なこともしているつもりなのだが、受け流されてはこちらがぼろを出しそうになるばかりで、学年末までもう時間はないというのに成果はない。
でも、年が明けてから小さな変化がひとつ。
「ああ、疲れた」
寮に着き、リドルはソファーに座り長い脚を組む。 アズミもその隣に同じように座った。
「まあ最近はずっと一緒に寮で過ごしてたしね」
「…この休暇は随分と楽に過ごせた」
「私のおかげだね」
「調子に乗るな」
そう言って頭を軽くはたいてくる。見上げれば、目の前にある口角はほのかにあがっていた。
そう。リドルはたまに笑うようになった。偽物でもなく、蔑むものでもなく、おそらく、本物の笑顔で。