「あー、どうしよう、うー…」

談話室で別れて自室に戻ってきた。ネクタイを解くことなくそのままベットに倒れ込む。なんだかこの世界に来てからベットに寝て悩み事を整理してばかりだ、と自嘲的に笑った。

もう本当に時間がない。いつマートルが殺されてもおかしくないような時期になってしまう。

それなのにいつまでたってもいい案は浮かばないし、頭が混乱するばかりだ。仲良くなって、魔法の力をつけて、あとは何をすればよいのだろうか。

こんなぼんやりとした望みだとどんなふうに願いが叶えられるかわからなくて、ネックレスに頼るのも怖い。

アズミは、寝返りをうって部屋を見た。山積みの本と珍しい薬草、ダンブルドアからクリスマスに貰った飴の瓶詰め。そんな風に、所狭しに物が散乱している。殺風景な部屋に一人暮らししていたとは思えないほどの物の数だ。

「…とりあえず掃除しようかな」

行儀が悪いと思いながらも寝転がりながら杖を振る。ごちゃごちゃとしていた物たちがゆっくりと整理されていった。

それでも部屋で勝手に作っていた謎の魔法薬は杖で動かすのが怖いので、手で片付けなくてはならない。魔法薬は繊細な物が多いので、それを入れているゴブレットにでも容易に魔法をかけられないのだ。アズミはその面倒さが少し好きだった。

数個のゴブレット以外を全ては本棚などに整理して入れ終わり、そこでやっとベッドから降りる。デスクの前まで来て、ゴブレットの中身を見てため息をついた。綺麗なエメラルドグリーンから毒々しいピンク、言葉で言い表わせないような色まで様々な見た目をした魔法薬が目の毒だ。

(…とりあえずもう少し改良とかしてみたいし、向こうのシェルフに置いておこうか)

紫色とショッキングピンクの液体が入ったゴブレットをそれぞれ両手に持って移動する。

慎重に、慎重に。そう思っていたはずなのに。

「あっつ!」

ふと目眩がして視界がぐらついた。そしてその拍子に両手のゴブレットがぶつかりあって混ざり合い、左手に思い切りかかる。かあっと熱さが手を覆った。焼かれるような、そんな痛みだ。

それでもこのまま手から液体全部を零せば大変なことになるため、激しい痛みに耐えながら急いでシェルフまで行きゴブレットを置いた。

「痛い…ずきずき、する…っ」

左手首辺りから全身に強烈な痛みが伝わる。痺れるような刺激が酷く苦しくて、右手で左腕を押さえた。火傷のように真っ赤になり、爛れたようになった腕がたまらなく痛々しい。皮膚が溶けているのか、白い煙がもうもうとあがっている。

しょうがないしリドルを呼んで治癒呪文をかけてもらおうか、そう考えた矢先だった。

「…え?」

何故か手首の痛みが弱まってきた。出てくる煙の量が少しずつ減る。

そして完全になくなった時、手首から火傷の痕は消えていた。

アズミは呆然と手首をみつめて立ち尽くした。尋常じゃない量の汗が全身からふきだすのを感じる。

呼吸が苦しくなる。息ができない。思考が回らない。

震える手で乱暴に引き出しを開ける。綺麗に整理し直したことなどどうでもいい。そして薬学で使うナイフを取り出した。

それを左手の掌に押し付ける。

「は…っ、は、あ…っ!」

思いっきり右手を引いた。鋭い痛みと共に血が溢れ出す。

そして、

「何なの…?こんなの………、こんなの、おかしいよ…」

煙があがったかと思うと、傷はあっという間に消え去った。

目の前の光景が、受け入れられない。目眩がして、吐き気がして、立っていられない。手に残った赤と鉄の匂いが酷く生々しくて、アズミは意識を手放した。

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