寮へ戻り談話室に入ると突然声をかけられる。
「どこに行っていた」
「ちょっと魔法の練習をしに、必要の部屋行ってたんだ」
いつも通りしれっと嘘をついて、暖炉前のソファーで本を読むリドルの横へ腰掛けた。彼はちらりとこちらに視線を送るが、何も言わずにまた本へ目を戻す。
「随分と勉強熱心なことで」
「まだまだ強くなりたいからね」
「ま、頑張れば?」
「ありがとう」
ぐっと伸びをしてソファーに体重を預けた。リドルはこちらを見ないまま、話し続ける。くだらない事を互いにぽつぽつと話した。
ふと、リドルがトーンを落とす。
「こんなふうに談話室でリラックスできるのも今日までか」
「あはは、そうだね。また明日から猫かぶらなきゃ」
「面倒だ」
「うん」
「…ところで、何故お前はそんなに疲れた顔をしている?」
突然の真剣な声に横を向く。リドルは、もう本を読んでなどいなかった。真っ直ぐに、アズミを見つめていた。
どくん、と心臓が鳴る。
「え、そう?」
「ああ。まあ僕以外なら気づかない程度だろうが」
「でもリドルはわかるって?」
そうひやかすが、こちらを見つめる真剣な顔は崩れない。
「休暇中、君の素顔…に限りなく近いものをずっと隣で見てきたからな。ある程度の嘘は見抜けるつもりだ」
「そっか」
「で、何故そんな顔をしている?」
いたわるようなまっすぐなリドルの言葉が痛かった。アズミは笑った。
「大丈夫だよ、何にもない。リドルの気のせいだよ」
そう言って立ち上がり、自室へと帰る。リドルは何も言わなかった。
***
アズミは部屋に入り、ドアを閉めた。そしてそのまま、扉に背を預けながら座り込む。両目からぼたぼたと涙が零れた。
こちらの強がりを見抜いて真剣に心配してくれるリドルが嬉しくてしょうがなかった。たまらなかった。
だから、寝不足かも、なんて笑って誤魔化すべきだとわかっていたのに、アズミは彼に心配をかけないように「大丈夫」だなんて口にしてしまっていた。無意識のうちに。
(ああ、なんか絆されてるよ私…)
明日からはもっと気を張らないと。そう考えながら頬を叩いて立ち上がる。
それでも虹は揺らめいて、七色が混ざりあって、黒に近づき濁っていくような。そんな気がした。