「うちの子、顔だけは良いんですよ。」
母親の口癖はこれだった。
「うちの娘は本当に顔だけだからなあ、」
父親の口癖はこれ。
そんな事を言われ続け、齢五歳で気づいた。
私は顔だけが長所なのだと。顔以外に私になんの価値もないのだと。
それに気づけばその後は早かった。
親に褒められるために子役になりたいとお願いをして、芸能界デビュー。
あれよあれよと人気子役の仲間入りを果たしたが、七歳でピークは終わり。
その後色々頑張ってみたが上手くいかず、事務所を移籍。
そして今の事務所でアイドルとしてデビューをした。
なんてたって顔が良い。
笑っていればとりあえず許された。
最初に私に与えられたポジションはセンター。
そして次に用意された仕事はお偉いさんの接待。
何も知らない私は十三歳で処女を失った。
それと引き換えに一生センターで居続けられると事務所が約束してくれた。
それだけで、私は舞い上がった。
私がアイドルで居続ける限り立って居るのは真ん中だ。
何があろうと真ん中だ。私を中心にグループを動かせるのだ。
その事実が私の処女の価値だ。
そう思えば何もかもを許せる気がした。
見て見ぬふりをする両親も、私を利用するだけの事務所も、厭らしい手つきで触る変態親父も。
でも一つだけあった。
許せないものが。
「名前は綺麗だな。」
何も知らないで私を綺麗だと言う幼馴染。
「今日も綺麗だったぞ、名前!」
綺麗だと言われる度に、大好きだった彼を恨んでしまう。憎んでしまう。
そんな自分が一番許せなかった。
眩しいくらいの笑顔で私に接する彼に、壊れ物みたいに優しくしてくれる彼に、慈しむみたいに大事に扱ってくれる彼に、いつも素直になれない。
何も知らない、純粋で綺麗な彼に八つ当たりをした。
「…名前?元気ないけど、何かあったのか?」
「准、私ってまだ綺麗?」
俯いている私を覗き込むようにしながら、優しく心配してくれる幼馴染、嵐山准。
彼の手をとって私のちょっとしか無い胸に誘導する。
「っな、何をしてるんだ!名前!?」
はじめは赤面しながらそう言っていたけど、私の顔が相当酷かったのか、真剣な顔で私の頬を撫でた。
「…急がなくていいから、聞かせてくれないか?」
「…」
「…そんなに泣いてたら綺麗な顔が台無しだ。」
困ったみたいに笑って私の涙を指で拭ってくれた。
「…もう、綺麗じゃないよ」
涙腺が壊れたみたいに涙が溢れているのに、私は至って冷静でそれに少しだけ安心した。
「…名前は綺麗だよ。昔からずっと、今だって泣いているのに目が離せない。」
今どきドラマでも聞かないような恥ずかしい台詞をサラリと言ってのける彼に、私は話した。
私がセンターでいられる理由を。
彼は悲しそうにしながら黙って話を聞いてくれた。
そして私を抱きしめた。
「気付いてやれなくて、ごめん。」
「…別に、へーき。」
「…やっぱり名前は綺麗だよ。」
引くわけでも無く、軽蔑する訳でも無く、以前と変わらない彼に私はどうしようもなく苛立って、彼を遠ざけるための言葉を放つ。
「それなら准が証明してよ。」
「…?」
「私を抱いて、それを証明してみせて。」
これで終われば良かったのに。