「そいや、名前とカゲってどういう経緯で知り合ったんだ?」
「、え?」
当真からの純粋で突然の質問に間抜けな声が出た。
お昼休み、屋上で話題に上がった本人がすぐ側でご飯食べてるのに、わざわざ私に聞くか?
なんて思った事が顔に出ていたのか、当真は一瞬怯んで苦笑しながらかげまさの方へ行った。
おい、やめろ。
「わりーわりー、名前が言いづらいみたいだからカゲが教えてくれ。」
本当に、やめてくれ。
「あ?…んなのは、」
あいつから聞けよ。と続くはずだったのだろう。相変わらず人の話に耳を貸さないようで、私が言わなかったから当真がそっちに行ったのに。
かげまさがうざそうに私を見て、目が合った。
バチン!と、音がした気がした。多分、と言うかそれは100%気のせいなのだが、平手打ち食らったみたいな、驚きと痛みがまぜこぜになったみたいな、かげまさがそんな顔をするから私がよっぽど酷い顔をしていたんだなと理解した。
「…っ、うぜ。」
かげまさは頭をガシガシとかいて、まだ途中までしか減ってない弁当を持って屋上から出て行ってしまった。
「…すまん。地雷だったみてえで。」
「…いや、地雷ではない。」
この場合、一番の被害者は何も知らない当真なのだろう。
白状します。
私苗字名前と影浦雅人はセフレでした。
今となっては本当にただの良いお友達なのだが、始まり方が歪で人様にお話できるようなものではなかった。
母親は何時目を覚ますのか分からず、心の平穏を求めて帰宅しても微妙な距離感の義父が居るだけ。
一人になりたいけど、独りにはなりたくない。
そんな面倒な私には家に居るよりも、夜の街に繰り出す方がよっぽど楽で、あてもなくぶらついていたら酔っ払ったおじさんとぶつかった。
そのおじさんはさっきまでお好み焼き屋さんに居たらしく、ソースの香ばしい匂いとアルコールの匂いを振りまいた。
本当に私は参っていたみたいで、その匂いを嗅いで大切な思い出と一緒に大粒の涙が溢れてしまった。
それを見たおじさんは狼狽えたあと、口角を上げて私をホテル街に誘導した。
「おい、おっさん、財布忘れてんぞ。」
ぶっきらぼうにそう言ったのは、影浦雅人。
学校で見る時はいつもマスクをしていたから、ギザギザな歯も通った鼻筋も始めて見た。
二、三秒目が合って、私は我に返った。
このままだと知らないおじさんにいいようにされてしまう。
そう思ったけれど、まだ純情だった私は震えて俯くことしか出来なくて、ただひたすら心の中で“誰か”に助けを求めていた。
まあ、結論から言うとその“誰か”がかげまさだったのだ。
おじさんの手が私の肩に触れる前に叩き落として、私の手を取り実家のお好み焼き屋さんに入れてくれた。
「…っあ、えと、」
「今日はもう上がる、明日また手伝っから、」
私の言葉を遮って母親に言い捨てて私を自室に連れ込んだ。
「…さっきは、ありがとうございました。本当に。」
「金に困ってんのか?それともただのビッチか?」
初会話でこんな事を聞かれたのは人生で初めてで、驚きすぎて言葉が出なかった。
暫く放心していたらため息が聞こえて、また涙腺が緩んでしまった。
「…っは?おい、お前、」
目の前で泣き出した事に狼狽えたと思ったら、抱きしめられた。
さっきのおじさんと同じお好み焼きの匂いがしたけれど、不快感はなくて、昔おかぁさんと言ったお祭りを思い出してもっと涙がでた。
そんな私の頭を辿たどしく不規則に撫でてくれて、安心して、好奇心が湧いた。
不良みたいななりをした影浦君が一体どんな顔で私を撫でているのか。
もうちょっと抱きついていたかったけれど、ゆっくりと身体を離して影浦君の顔を見た。
ギラついた目はどこか優しさを含んでいて、綺麗で吸い込まれそうで、目が離せない。
もっと近くで見たい。
本当に吸い込まれるように影浦君の目を見つめたまま近付けば、鼻先が触れ、そして次に唇同士が触れ合った。
少しカサついた唇の感触に我に返れば、自分のしでかした事に顔中の温度が上がって、硬直してしまった。
「ごめんなさっ、んぅ、!?」
謝罪は影浦君の口内に吸い込まれて、最後まで言えなかった。
影浦君の舌が私の口内をぐるりと犯して、さっき抱きついていた時よりも落ち着かないのに、嫌じゃなくて、強請るように影浦君の下唇を甘噛みしたらもう何も考えられないような、ただただ足元から快感がせり上がってくるような刺激に、喘ぐしか無かった。
どれくらい経ったのか、影浦君が満足して私から離れようとした時、無意識に私は影浦君に抱きついていた。
「…っはあ?お前、欲求不満かよ。」
吐き捨てられたその言葉に、違うと言いたかった。
でも、ここで否定すれば私はまた独りになりそうで、独りになるくらいならビッチだと思われようが、影浦君の傍にいさせて欲しかった。
多分私は初めての時から才能があったんだろう。
目いっぱい涙を溜めた瞳で誘惑するように見つめれば、影浦君は優しく私を押し倒した。
「…はしたねえ女だな。」
「…ぶっちゃけ、初めての相手がかげまさじゃなったら私は今頃、男なんて知らずに自殺してたかもなんだよな〜。」
「っは、じゃあ、俺に救われてんじゃねえか。」
当真がボーダーへ行ってしまった帰り道、思い出を胸にかげまさに話しかける。
「…優しく抱いてくれてありがとね。」
「…お前は、馬鹿だな。」
「…え?」
かげまさはどこか満足気にそう行って先を歩いて行った。
この話は、墓場まで二人の秘密だ。
万が一二宮さんにでもバレたら、生きたまま埋められそうだし。