二宮さんと付き合ってから、私にはとある悩みがある。
「…二宮さんって、不能なのかな、」
「っぶー!……急に何言ってんだ!?」
当真に問いかければ口から飲み物を吹き出した。
汚い奴だ。
「…おい、真っ昼間から下ネタぶっ込んで来てんじゃねえぞ。」
「かげまさぁ〜!私って魅力無い〜?」
一緒にお昼を食べていたかげまさに絡んでみると心底嫌そうな顔をされた。
酷い。
「いやいや、魅力も何も二宮さんとは円満じゃねーの?」
「…円満っちゃ円満なんだけど、」
「けど?」
「どうせしょうもねえ事だろ、勿体ぶってねえでさっさと言え。」
当真は協力的なのにかげまさはやけに刺々しい。
「…付き合ってからキス以上の事してない。」
「…………………え?」
「っは、くだらねえ。」
やっぱりかげまさは非協力的みたいだ。今も携帯アプリを起動し始めた。なんて奴だ。
「マジか?てか名前、欲求不満とかにならねえの?」
「マジ。だけど、もしかして当真も私の事ヤリたがり快楽主義者だと思ってるの!?」
二宮さんとまだセフレだった時にそう認識されていたので、まさかとは思うが当真にも聞いてみたが、え、違うの?みたいな顔をしてくるのでとりあえず肩パンを御見舞する。
「違うわ!私は一人にならなければなんでも良かったの!」
「…ならわざわざヤラなくても良かっただろ、なんでセフレ作ってたんだよ?」
「…何だかんだで気持ちいいし、愛されてる感じするじゃん?」
「知らねーーーー!つか、知りたくねーーーーー!!」
当真から聞いてきたくせに両耳を塞いで叫び出した。何なんだ。
隣のかげまさに至っては舌打ちをして睨んできた。何でだよ、あんたゲームやってたじゃん。
完全に相談する相手を間違えた。そう思い、違う話を振って話し込んでいれば昼休みが終わった。
「もしかしたら、意外と奥手なのかもな。」
教室に戻る途中当真がそう言ったので、何だかんだで相談に乗ってくれる良い奴だな。と当真の株が上がった。
「…おい、何で当真と変な話してんだよ。」
「…え?」
学校が終わり、今日は防衛任務が無いからと迎えに来てくれた二宮さんと帰っていたら突然そう言われた。
「…変な話なんてしてませんよ?」
「じゃあこれは何だ?」
そう言って携帯画面を見せてきた。LINEのトーク画面で、相手は当真。
当真から「二宮さんって本命には手が出せないタイプっすか??」というメッセージが送られていた。
「…うわ、」
「うわ、じゃねえ。今日寄ってけ。」
そう言ってナチュラルに手を繋がれた。
いや、この場合逃げ出さないように捕まえられたのだろうか?
「…あー、ゴムあります?薬局寄って行った方が」
「うるせえ。黙ってついてこい。」
二宮さんを怒らせてしまったようだ。
私より広い歩幅でずんずん歩かれて、私はついていくために走っている。
だんだん息が上がってきて足がもつれて転けそうになってしまった。
「っ、ありが、とうございます。」
「…悪い、もう少しゆっくり歩く。」
私の膝が地面に擦れる前に気付いて振り返って受け止めてくれた。
二宮さんの表情はどこか頼りなくて、どうしてそんな顔をしているのか分からなくて不安を覚えた。
二宮さんの家に着いて、手を洗ってソファに座らされる。
二宮さんはいとも通りにココアとコーヒーを持って私の隣に座った。
「…ありがとうございます。」
「…ああ、名前、」
「二宮さん、っ?」
随分と覇気のない声に返事をすれば、珍しく私の肩に倒れ込んできた。珍しいどころか今まで二回くらいしかない。しかもその二回ともレポートのための徹夜明けの日だった。
素面でこんな事をしてくるなんて、どうかしたのだろうか?心配する気持ちが先に来て、二宮さんの頭を撫でながら声をかけた。
「…どうしたんですか?疲れちゃいましたか?」
「…敬語、」
「え?」
「…敬語、そろそろやめねえか?」
二宮さんの耳はほんのりと赤くなっていた。
「えと、どうして急に?」
「急じゃねえ。付き合ってるんだから、順番があるだろ。」
意図が読めない言葉に思考を巡らせていたが、答えが出る前に二宮さんが答えてくれる。
今日は饒舌なようだ。
「名前で呼んで、普通に喋って、」
「…」
「出かけて、手を繋いで、」
「…うん、」
「抱きしめて、キスをして、」
「うん。」
「順番に繰り返して、それで抱くんだ。」
「ふふっ、意外とロマンチストだね。」
「うるせえ。」
話を聞きながら、二宮さんは好きな人と一緒に進んでくれる人なのだと、優しくて素敵な人なのだと実感した。
それと同時にそんな二宮さんの気持ちを踏みにじるみたいに、セフレから始めてしまった事も実感した。
最初に最終目標を達成してしまった私とじゃ、もう何をしていいのか分からずに足踏みをしているのだろうか。
漠然としていた不安は明確なものに変わって、視界がぼやけるのが分かった。
「だから、大事に抱くために、段階を踏んでる最中、なんだ、よ、」
「……………へ?」
「お互いが相手の事しか考えられなくなった時に、滅茶苦茶大事に愛してやる。」
そう言って私に触れるだけのキスをした。
離れていく唇を確かめるみたいに指で触って反芻する。
触れた所から体中に熱が広がって、目から熱いものがこみ上げてきた。
「…泣くなよ。」
「わたし、嬉し泣きしたの、はじめて、」
そう言えば優しい顔で笑って抱きしめてくれた。
二宮さんが私を大事にしてくれるなら、私は大事にされたいと思った。
二宮さんが私を大事に思うのならば、私も二宮さんを大事にしようと思った。
今でも二宮さんのことばかり考えているのに、これから先もっと二宮さんのことで頭がいっぱいになってしまうのだろう。
それがとても嬉しいと思える程、私は二宮さんを愛しているんだ。