アラームの音が鼓膜を揺らした時、それが夢なのだと気づいた。
目尻から頬にかけて涙が伝っていて泣いていたのだと理解する。
昨日は久しぶりに友達と遊んで楽しかった。仕事が忙しくて、恋人含む知人との接触が無かったここ二ヶ月、その反動でただのウィンドウショッピングがライブ並みのイベントに感じた。
そのせいで、普段よりも遥かに憂鬱な月曜日。
さっき見た夢と合わさって特に。
真っ暗な中にぽつんと一人で立っていた。
スポットライトに照らされたかと思えば頭に直接声が響く。
『生きたいと思ってますか?』
ライトの光がジリジリと暑く感じていた。
「…生きたいも何も、まだ死んでないし!」
『いいえ、あなたは死にました。』
唐突なお知らせ。このありえない状況下では現実味は全く無く、信じるにはもう少しリアリティが欲しい所だ。
自嘲気味に吹き出すと暗闇にスクリーンのような物が浮かび上がった。
私の立っている真後ろに立派な座席が出てきて、一人用の映画館が完成した。
とりあえず座席に腰をかけて、スクリーンに目をやればそれは懐かしい映像だった。
簡潔にいえば私の人生。
その映画は私が生まれて死ぬまでの映像だった。あまりの出来の良さに見入ってしまうほどだった。
全て見終わって、思い出した。
悪い夢だと思っていたあれは現実だ。
お互い多忙で三ヶ月ぶりに休みが被った日曜日。恋人との待ち合わせ場所に向かえば、見知らぬ女性と楽しげに話し込む恋人の姿があった。
赤信号に捕まって、立ち尽くす私の脳内は酷く冷静で、今日楽しみにしてたの私だけか。とか、どうやって振られるんだろう。とか、そんな事を考えていたら、目の前に人が飛び出した。
信号は未だ赤。交通量の多い道路には風に吹かれた風船を追いかけて飛び出した五歳くらいの男の子。
劇的な瞬間ってスローになるの。
本当に不思議。
そう思っていたら身体が勝手に動いていた。
こう見えて学生時代は足が速くて陸上部にしつこいスカウトを受けたんだから。
子供がトラックに跳ねられそうになる、そんなタイミングに間に合った。私は目いっぱい力を込めて生い茂る草むらに男の子を投げた。
視界がクラッシュする直前、すごい顔した恋人の顔と、男の子が無事草むらに受け止められたのを見た。
「どうせ振られるなら、未来ある少年を助けたかった。」
『貴方の行いは善い行いです。ですから、私からチャンスを与えましょう。』
声は聞こえるのに姿は見えない。
何となく、これが神の声なんだろうなと納得して、次の言葉を待つ。
『一週間、貴方を地上に帰します。未練を断ち切って来てください。』
「…え?」
『善い行いをした者を優先的に輪廻の環に還すのが私の役目。その為には現世に未練があると厄介なのですよ。』
神の声だと思ってたけど、天使の声かも。
そんな風に現実逃避をしていたら、意識が遠のいた。
そして全身に走る激痛。何事。
「…っ、名前!分かるか?俺だ、慶だよ。良かった。目が覚めて…。」
視界に入ってきたのはもじゃもじゃ頭に格子柄の目をした青年。
自分の事を「慶」と言う。懐かしい気はするのに、誰なのか分からない。
「…おい、太刀川急にしがみついたら驚くだろうが。大丈夫か?名前?俺の事、分かるか?二宮だ。」
今度は「二宮」。この人も耳馴染みはあるけど、思い出せない。
あれ、もしかして。
頑張ってさっき見ていた内容を思い出そうとするが、天使のお告げ以外何も思い出せない。
「…すみません、私は誰なんでしょうか?」
信じられない。
未練を断ち切って来いと言ったくせに、私の記憶消しやがった。