04.バイバイ恋心

苗字名前は裏表が無い。

入学式壇上で新入生代表の挨拶をする姿を見て、絵に書いたような優等生が実在するのかと感心した。

教室に戻った時に同じクラスだと分かり、自己紹介を聞いた時に俺の中の想像をぶち壊した。

恐らく頭に浮かぶ言葉を羅列しているであろう話し方、大きな身振り手振り、大口を開けて笑う顔。

一言で言うと、馬鹿っぽい。

苗字に対する新たなイメージはそれにつきた。

実際、話しかけてみれば新たなイメージ通りで、良い意味でも悪い意味でも裏表が無い奴に俺はとことん好印象しかなくて、よくつるむようになった。

「…本当に納得いかねえ。」

「あははっ、負け犬の遠吠えは見苦しいぞ!出水!!」

高校生になって初めての定期考査。昼食を賭けて点数を競ってみて、痛い目を見た。

名前の持つテスト用紙には学年一の点数が記載されている。

嬉しそうに笑顔を向けられ、そう言えば新入生代表の挨拶をしていたな。とそんなに遠くない日の事を思い出した。

自分からふっかけた勝負だ。潔く昼飯を奢ろうと学食へと足を運ぶ。

途中、米屋も合流し三人で歩き出した時。

「ね、苗字さん本当にムカつくよね。」

「本当に〜、出水と米屋もなんであんな女とつるんでんの?」

女子トイレからそんな話し声が聞こえてきた。何時誰が通るかも分からないのに、よくもまあそんなに大声で他人の悪口が言えるもんだ。と頭の隅で考えながら、隣の名前を見て息を飲んだ。

いつも笑ってばかりの名前は赤面し、唇を強く噛み締めて少し俯いた。

普通に驚いた。

どうでも良い奴になんと言われようと、どうとも思わない。と言っていたのに、名前にとって今悪口を言っていた奴らは、どうでも良い奴ではないらしい。

「…女子っておっかねえ。」

「…ははっ、私も女子だよ〜?」

微妙な空気が漂っていた中、米屋が口を開けば震えた声でそう言った。

まあ、かといって俺と米屋が名前から離れるということは無いのだけど、何となく女子の前では気を使うようになった。

それから数ヶ月、名前が陰口を言われていたのなんて忘れていた頃、防衛任務で早退した日。忘れ物に気付いて取りに戻った中休み、見覚えの無い女子が名前の下駄箱から走り去って行くのを見た。

そこまで見てしまった手前、好奇心もあるが確認せずには居られず、名前の下駄箱を開けてびっくり。

漫画でしか見た事の無いような中身。ボロボロになった上履きを見てもはや笑ってしまった。

教師に言わねばと思ったが、防衛任務の時間が差し迫っていたので、とりあえず名前のボロボロの上履きを取り出し、自分の上履きと入れ替えておいた。

そのまま裸足で忘れ物をとって防衛任務へ。

翌日名前は、昨日うちの上履き持って帰った?なんて、呑気に聞いてきたので無性に苛ついて頭を小突いてやった。

勿論、上履きの一件は教師に報告済みだ。

進級しクラス替えもあり、前のような事は今のところ無いようで、俺も米屋も安心している。

まあ、女子とは相変わらず馴染めて居ないが。

いつか、名前が女子とも馴染めたらいい。

いつしか俺は名前に好意を抱いていた。

まあ、父性に近いかもしれないが。

隙が無いようで隙だらけ、裏表が無いが強い訳じゃ無いそんな名前が好きで、きっと名前も俺に惹かれている。

そうなればいい。そう思っていた。

のに、

「…え、記憶処理するんすか?」

「念の為らしいぞ。」

警戒区域に入った野良猫を助けに来た。そんなお人好しな名前を近界民から助け出して、気を失ってしまったから本部に連れ出せばそんなことを言われた。

まあ、念の為。特に変な話もしていないし、気にする事は無いのだが。

やけに胸騒ぎがして、落ち着かなかった。

それは見事的中し、記憶処理が終わって目を覚ました名前は、近界民と接触した前後の記憶も一緒に処理されていて、俺とパフェを食べに行く約束を忘れていた。