いつものこと
 

ぴんぽーん、と備え付けのインターホンの音が部屋中に鳴り響く。
ソファに座ってバイク雑誌をペラペラ捲っていた部屋の主は腰を上げて玄関の扉を開けに行く。
リビングには学生寮に必要ないと思われるドアホンが備え付けられている為、自ら開けに行かずともそのボタン一つで部屋の開錠は可能なのだが、部屋の主は来訪者が誰か分かっていたようで表情にはでていないがインターホンがなった途端、嬉しそうな雰囲気を出して玄関に向かう。

「来ると思ってたぜ、シノ」
「……ソー…」

扉を開ければそこにいたのは予想通りの人。
自分は160cmあると言いはっているが、それでも一般の男子高校生より小柄な方な目の前の彼は自身と同じくらいの大きさの荷物を抱えて頬をむっと膨らまし不貞腐れた表情でそこに立っていた。

「…またF落ちした…」
「そんなことになるのなんて目に見えて分かってただろ、いいから入れ」

シノが言うF落ちとは、この学園の特殊な制度のことを言う。
ニヶ月に一度、この学園では筆記と魔法実技の定期テストが行われる。
筆記は文字通り国語や数学、歴史学、精霊学、魔法理学といった内容のテストで、学力を問われる。
魔法実技と言うのは、簡単に言えば魔法理学を理解した上ででは実際にやってみましょう、というテストだ。筆記より実技の方が簡単かのように思われるかもしれないがテストと言うだけあって求められる魔法はなかなかレベルが高い。

この学園…ルイス魔法学校は大変長い歴史を歩んで来ている、魔力を持った子どもたちに魔法を教える由緒ある学園である。
幼学部、中学部、高学部と全寮制の男子校で、クラスはS、A、B、Fの四クラスのみ。

この世界に魔力を持って生まれる子どもは男のみ。それも男が全員魔力を持っている訳ではなく、千人に一人いるかいないと言われる程に希少な存在だ。この学園が男子校になるのは必然的であった。

全世界から集まって来た魔力を持つ子どもたちの中でもさらに希少な、俗に言う優秀な生徒がこの学園には山ほどいる。精霊召喚に長けた者、浮遊魔法が得意な者、例を挙げればキリがない程だ。

そんな大粒揃いのルイス魔法学校の中にも落ちこぼれという存在はいた。それがシノだ。

本来、魔力保持者は生まれつきその体内に血液と同じように魔力を流しているのだが、シノの場合後天的に魔力保持者になった。
それは極めて稀な例で、シノの魔力の謎を解明するとこの学園は半ば無理やりにシノを連れてきた。

シノは内に膨大な量の魔力を秘めていたらしく、編入当初は膨大な魔力量と等しい期待を受けSクラスからのスタートだった。
しかし、今まで文字通り普通の生活をしてきたシノにいきなり精霊学、魔法理学、魔法実技といったレベルの高い学問を叩き込んでも素直に成長できる訳がなかった。
元々シノは容量がいい方ではない。本人も必死に追いつこうと努力はしているが。

…してはいるが、二ヶ月に一度の定期テストでは毎回クラス最下位、それを繰り返す内にSクラスからFクラスへ落ちてきた。
前回のテストではFクラスだった時にBクラスの最下位を抜き、なんとかBクラスに入れたようだが、今回でまたBクラス最下位、Fクラスに落ちてきたらしい。F落ちとはその名の通りFクラスに落ちることを指す。
クラス毎に寮が変わる為シノは二ヶ月に一度部屋の大移動だ。

Fクラスは魔力も実力も兼ね備えた者達だが過去に何か大きな問題を起こした者ばかりが集められたクラスで、体を使って暴れる事が好きな集団だ。
この学園の特性ゆえ、ケンカとなれば魔法が混ざることが多々ある。ソーは高学部二年、普通なれば三年がF寮の最上階の部屋を使う筈だがその腕っ節一つでF寮全体のトップに立ち、一番いい部屋を当時のトップからもぎ取った。
もちろん魔法実技の実力もSクラスには劣らない。しかしケンカ好きの荒い気性と他人との関わりを一切拒むその性格から、幾度も問題を起こしソーはSクラスからF落ちした。

そんな人嫌いの筈のソーが異常な程執着する人間がいる。それがシノだ。
この学園では珍しい凡庸な顔立ち、赤毛混じりの茶髪と同じ瞳の色、小柄で、しかし負けず嫌いなシノに、精霊と見紛う程の整った容姿、漆黒の髪と瞳を持つソーは一目見た時から虜なのである。
F寮にはまだまだたくさんの空き部屋があるが、人嫌いのソーがそのF寮で1番広い良い部屋で共同生活をするくらいにはシノは彼にとって愛しい存在だ。

「また魔力コントロールできなかった…」

そう言ってショボくれるシノを座り心地最高のツヤのあるミルクホワイトのソファに座らせ彼の好むココアを淹れて、自らにはアルコール度数の高い酒を注ぐ。一応学生の飲酒は禁止されているがFクラスの生徒にそれを咎める教師はいない。

「筆記は割と簡単だったし、手応えもあったんだけど…実技はどうしても難しくて、詠唱も頑張って覚えたし魔法陣だってちゃんと描けてたはずなのに」
「精霊召喚のテストだったのか」
「うん…なにも召喚できなかったけど」

召喚出来なかったのは俺一人だけだった、とうるうると半泣きでそう零すシノの頬を指の背でそっと撫でる。
するとシノはその手に誘われるように元々近かったソーとの距離をゼロにまで縮める。

ゆったりとソファにもたれるソーの膝の上に移動してその大きな胸板にシノは背中を預けた。

「もうお前ずっとFにいろよ、なんでそうSに戻りたがるんだ」
「別に戻りたい訳じゃないけど…ん、まだSのやつらに見返せてないし…」
「Fでも勉強できるだろ、ちゅ、Fにはお前をバカにするやつはいねえし俺がさせねえ…」
「んっ、ソー…くすぐったい…」

逞しい両腕の中にシノを閉じ込め白いうなじに赤い痕をいくつもつける。そのこそばゆさにシノは微かに身を捩りながらソーを受け入れる。
しばらくその甘い口付けを首筋に受けていると、ソーのごつごつとした大きい手がシノの服の下をいやらしく這う。

「あっ…ソー…ん、」
「二ヶ月、俺がいなくてさみしかったろう?どうやってこの熱を冷ましてたんだ?」
「やっ、いじわるゆーなぁ…んっ、あ、」

はあはあと息が乱れ、なんの膨らみのない胸の頂をくりくりと弄られる。
その場所は二ヶ月前に嫌と言うほど目の前の彼に責められ胸は平らなのに乳首だけはぽってりといやらしく女のように大きくなってしまっている。

シノは上を見上げて人の胸を弄って楽しそうに笑う男にキスを求める。

少し唇を尖らせればソーは喉を鳴らして笑って、優しい啄ばむ程度のキスの雨を降らせる。

「ちゅっ、ん、ソー…っ、ここじゃ、ヤ、…ベッド…いこ?」

本当に愛らしく、いやらしく成長してくれたとソーは思う。

シノが初めてF落ちした日にソーは絶望のどん底にいるような表情をしたシノを連れ帰り、そのままベッドイン。
その日から毎日毎日シノがBクラスに上がるまでの二ヶ月間密度の濃い時間を過ごした。

シノがBクラスに上がってからは何度か会う事は会っても体を繋げる事はなかったから、久しぶりの行為にシノがソファよりベッドを選ぶのは当然の事なのかもしれない。

ソーはその逞しい右腕にシノを乗せて、まるで親が小さな子を抱きかかえるようにシノの小柄な体を抱き上げる。
シノはソーの首に両腕をまわし、早く早くと急かすように拙くはあるが、深いキスをソーに仕掛ける。

「んちゅ、ん、ソー…はむ、ちゅ」
「…ん、いい子だ」

シノには元々男を好きになる趣味なんてなかった。
だからと言って女好きだったわけでもない。恋や性に疎かったシノにとって初めては全てソーだった。
初めの頃は、キスをするだけで息が出来なくなるなんて事がざらにあったのに、今では自分からその拙い仕草で誘って来るのだ。本当に愛おしくて仕方がない。

ソーは自分の唇に吸い付いて来る腕の中の可愛い恋人の頭を空いている手で撫でてやりながら器用に寝室へ繋がる扉を足で開ける。
そして白のシーツが敷かれたキングサイズのベッドへシノを優しく降ろすと先ほどの優しさはどこへ消えたのかと思わせる程の力強い、激しいキスでシノを責める。


夜はまだまだ始まったばかりだ。





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