我輩はケット・シーである
 

我輩はケット・シーである。
主人は我輩をケット・シーと呼ぶ。
それは種族名で我輩だけを指す名ではないのだが、主人はそう呼ぶ。特に我輩に不満はないし、名前をつけられた方がなんだか束縛されているようなのでやっぱり我輩は現状で満足している。

主人との出会いはほんの数日前、主人の通うガッコウのテストとやらで我輩は召喚された。
茂みで日向ぼっこしながら寝ていると我輩好みの魔力の気配を感じ、気がつくと主人の描いたマホウジンの中にいた。

初めて主人の顔を見て賢い我輩、ついにニンゲンに召喚されてしまったのかと悟る。
精霊によってはニンゲンに仕えることを誇りとする奴らもいるが、我輩はケット・シー。自由でマイペースな、高貴な存在なのである。ニンゲンに仕えてなんてたまるかとずっと考えていた。

しかし、我輩好みの魔力の匂いと、我輩が召喚された瞬間の少年の嬉しそうな表情に、思わず我輩契約を交わしてしまったのである。

こう見えて我輩、ケット・シーの中でも長齢で、人語も理解できる賢い猫の精霊さんなのだ。
なので我輩が召喚されたとき、主人の召喚を見守っていた主人と同じ年頃のニンゲン達の我輩のような低級精霊しか召喚できないのかという言葉を聞き、主人を下手に見て笑う様子を見て、主人の人間社会での大体の立ち位置を知る。

主人はニンゲンの仲間に嫌われているのか。
こんなにも美味しそうな魔力を持っているのに。じゅる。まったくニンゲンという生き物は見る目がない。じゅる。

あっ、我輩としたことがいけない。涎が。じゅるる。


我輩が主人に召喚された日の夜のこと、我輩主人に抱えられある部屋へと連れて行かれた。
それにしても主人の抱き方はなってない。
精霊と言えど我輩は猫。前足の脇部分だけを抱えていたら下半身がどんどん伸びるだろう。まるで振り子時計の振り子になった気分だ。ちゃんと我輩のぷりちーなお尻も支えておくれ主人。
しかし悲しいかな、人語を理解できる賢い我輩、人語を発する事はできない。我輩の舌では人語を発音することができないのだ。
みゃあ、と一回鳴いておいた。


「ソーっ!見て!俺にも使い魔ができたんだよ!」

我輩驚いた。
連れて行かれた先には闇のような容姿を持つニンゲンの男。
奈落の神タルタロスのような雰囲気を纏うニンゲンは深い闇の色をした鋭い瞳に主人を映し優しく微笑んだ。
我輩とても驚いた。

「おかえり、とりあえず先入れよ」

賢い我輩、また察する。
このニンゲン…タルタロスと呼ぼう。タルタロスは主人のことが好きなのだ。
主人がこの部屋に入った瞬間からタルタロスの体に流れる魔力は喜びの感情を乗せていたが、主人が嬉しそうに我輩のことを自慢した途端、喜びの感情は倍以上になったのだ。

我輩、実は魔力の流れも読めるのだ。
タルタロスの魔力は主人が嬉しそうになにか話すたび活発になっている。

我輩、猫の身ではあるが長い時を生きている。
そもそも魔力の流れを読まずともタルタロスが主人を大切に思っているのは声や表情で分かったし、逆もまたしかりだ。

ふむふむ、この二人は恋仲というやつなのか。
我輩的には主人が幸せならそれでオッケー。
魔力と言うものはプラスの感情が乗れば乗るほど美味なものになる。

精霊は食物を食べなくても生きていける。魔力の塊だから魔力さえ蓄えられれば何百年と生き続けられるのだ。
契約を交わした精霊はたまーに、ニンゲンの魔力を食べちゃうことがある。
それは魔力発動時にニンゲンの魔力を借りるのとは違って、精霊の食事は何も生み出さない。しかしニンゲンの魔力を食べることで精霊の魔力も大きく、強くなる事がある。

我輩は元々強いのでそれ目当てでは食べてない。
今まで長い時を生きてたくさんのニンゲンの魔力を食べたことがあったが、匂いだけで我輩の食欲をそそるのは主人が初めてだ。

「今日のテストは、自分の魔力量に釣り合った精霊を召喚するテストで、召喚するまではどんな精霊が出て来るか分からなかったんだけど…ケット・シーが自分の描いた魔法陣の中にいるのを見た瞬間もう嬉し過ぎて、」
「今も十分嬉しそうだ」
「そりゃあ嬉しいに決まってるじゃんっ。こんな可愛い精霊が俺の使い魔なんだ!」
「分かったから興奮するな…」

タルタロスが主人の頭を撫で瞼に口付ける。

ああ、ああ、二人ともそんなに美味しそうな魔力を垂れ流して。
精霊の食事はニンゲンに口付けて直接吸い取るように頂くのだが、この部屋には今主人とタルタロスが垂れ流した魔力で充満している。この匂いだけで酔っちゃいそうだ。

我輩、その充満した魔力を猫の手でかき集めぱっくん、かき集めぱっくんと食べていく。
うむ、美味。美味。
直接食べたらもっと美味しいのだろうな。
主人のは想像通り我輩好みの至高の味で、タルタロスはまた違った美味さ。

ああもう直接食べちゃおう。
二人が座るソファに飛び乗った瞬間、タルタロスは主人を横抱きにして抱え立ち上がった。
そしてそのまま寝室と思われる場所へ行った。

我輩賢いから、またまた察する。
これは一晩、二人はもうあの部屋から出てこないな。
くそう、主人の魔力を直接食べるのは今日はお預けなのか。

バタン、と閉められた扉の隙間からより一層味の濃くなった魔力が漏れ出している。
我輩はその魔力をちみちみ食べながら早く夜が更けないかな、この部屋から主人が出てきたら一番に魔力を頂こう、と思いを馳せて、みゃあと一回鳴いた。




……

種族のランク的には低級とされるケット・シーですがいろんな人間の魔力を食べてきたので上級精霊に負けず劣らずな実力があります。実は強いケット・シー。
黒猫の姿で、目鼻辺りと胸だけ白い。普段は猫のように四足歩行で一日の大半を寝て過ごしていますが実は二本足でも歩けちゃう猫の精霊さんです。





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