「うーん…眠い…」
授業が終わってから、日が暮れるまで学園内の図書館で自主勉強していたシノは腕を上にあげ背筋を伸ばす。ポキポキと骨が小気味好い音でなった。
(今日の晩ご飯はなに作ろう…)
天井は高くシャンデリアが吊るされており床には真っ赤な踏めば足が沈むような絨毯がしかれている。なんとも学び舎には似つかわしくない廊下を帰り支度をし、覚束ない足取りで歩きながら考える。
しかし睡魔に襲われつつある頭はボーっとするだけで、うまく思考が働かない。
そんなシノの少し後ろを最近太り気味な使い魔のケット・シーがぽてぽてついて来ている。
まず、自分がこんなに今眠たいのは十中八九ソーのせいであるとシノは眠たい頭で考えた。
昨晩も、明日は授業があると言ったのに無視して朝日が登るまでずっとセックスしていたのだ。
ソーは絶倫というやつで、シノがあまりの快楽に気を失っても構わずシノを求める。
おかげさまで腰とお尻への鈍痛と、寝不足でずっと今日一日眠たかった。ここ一週間はずっとこんな感じだ。今日こうして図書館に篭って勉強していたのだってただでさえついて行けていない授業でうたた寝をしてしまい、それを取り返そうと思ったからだ。…しっかり中身が入ったかどうかは別として。
(もういい…今日の晩ご飯はソーに勝手に食べてもらお…)
セックスのとき、もちろんソーがリードするのだが基本ソーはシノの嫌がる事はしない。確かに絶倫ではあるがそれをセーブすることだって出来る。
朝までセックスしたのはシノもソーを求めたからだと言うことに、ソーが絶倫だからと結論付けている為、未だシノは気付いていない。
「ただいまー…」
カードキーをセンサーに通して部屋に入る。
すると、料理のいい匂いがシノの鼻をくすぐった。
「おかえり」
キッチンを覗くとソーがカレーを作ってくれていた。後ろから抱きついて「甘口?」と聞けば「中辛」と返ってきた。ついでに頭をワシワシ撫でられる。
自分が作ってと言わなくても作っていてくれていたことに少し感動した。が、元はと言えば全ての原因はソーだ。シノはさらに甘えることにした。
「どっかの誰かさんのせいで俺は眠いです。スプーンを持てないくらい眠いので、食べさせてください」
テーブルに座ってさあ食べようと言うときにシノはソーに言った。
先程よりかは割りと睡魔はマシにはなっていたのだが目をつぶれば一瞬で夢の中にはいけるくらいには眠い。
向かい合って座っていたのだがソーは一瞬ぽかんとした後少し笑ってイスを動かし、シノの隣に座った。
「しゃあねえなあ、ほら口開けろ」
「あーん」
銀のスプーンに白いご飯とルーを掬ってシノの口元へ運んでくれた。
シノがもぐもぐしてる間に自分も食べる。
(うーん、美形は食べさせてくれる時も美形だ)
スプーンを持つ指の長い大きな手、自分にだけ向ける優しい声と、いたずらっ子みたいな笑い方、指通りのいいサラサラの髪、
言い挙げていけばキリがないほどの、ソーをソーたらしめるその全てが好きだ。
ぽやぽや眠たい頭でそんな事を考えているうちにいつの間にかカレーを食べ切っていたらしい。
「風呂入れんのか」
ソーのその一言ではっとなる。
明日も学校あるし、入りたい。
しかしたった今意識がどこかへ飛んでいったばかりだ。それに指一本動かすことすら億劫である。今日はソーに甘える日と決めたのだ。一緒に入って洗ってもらおう。
「ソーと一緒に入るう…」
ソーはまたしゃあねえなあ、と笑った。
洗面所で服を脱ぐところから髪や体を洗うまで全てソーにやってもらい、今は二人で湯船に浸かっている。
F寮で一番いい部屋の風呂はもちろん広さも文句なしで、バスタブは大の男が足を伸ばしてもまだ余りある。
ソーは膝の上にシノを乗せて二人の時間をのんびり味わっているところだった。
と言ってもシノの意識はもうほとんど夢の中で会話らしい会話は出来ていないが。
「ソーはぁ、今日から俺せんよーのお世話がかりねえ」
「給料はちゃんと出るわけ?」
「んーぅ、おきゅーりょーはないからぁ、やっぱりソーは俺のドレイにするう」
眠たさからかいつもより舌足らずな喋り方になって、言ってる内容もハチャメチャだ。
惚れた弱みかそんなところすら愛くるしくて、愛おしいが。
「じゃーご主人様、ドレイはこの後どうしたらいいでしょうか」
「ふへへ…そーだなぁ、俺をベッドにつれてって、添い寝しろお」
「仰せのままに」
ソーは後ろからシノの右のこめかみに一度優しく口付けて風呂を出る。
きっとシノは、明日も寝不足になるに違いない。