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常日頃から胸に抱えている疑問が、シノにはある。
どう考えても理解できないそれはいつも解決する事なく、しかしふとした日の何でもない瞬間に、ソーの顔を見るたびに、優しくされるたびに、深い愛を感じるたびに考え込んでしまう。

(一体ソーは、俺のどこを好きになったからとこんな俺に尽くしてくれるんだろう)

ソーが惜しげも無く、見返りを求めて与える訳でも無いその愛に、シノは当然喜びに震え嬉しさに舞い踊ってしまいたくなるほどだが、常々その愛の由来はいったい何なのか考えてしまうのだ。

「ねえ、ソーって俺のどこが好きなの」

何度目かも分からぬ、少しめんどうくさい女のような質問をベッドでごろごろと落ち着きなくなんどか寝返りをうってのんびりしているソーにシノは投げかけた。

「ぜんぶ」

返ってきたのは何度目かも分からぬ、シノには到底理解できような答え。それにはほとほと聞き飽きた。ベッドに腰掛けてソーに話しかけるシノの腰を抱き込んで力のこもった、しかし優しい力でシノをベッドに倒す。シノの間近にソーの人間離れした美貌の見慣れた顔が現れる。

「いつもそれじゃん」
「それ以外答えようがねえよ」
「…むう」

その美しい顔はとろんと甘い表情になって、シノにとっては煮え切らない、ソーの返事により少し荒んだ心をも甘く溶かそうとする。大きな掌でシノの頬を包んでつむじから顔中にキスの雨を降らす。

「…まずは顔」

唇、瞼、鼻の頭、こめかみ、額、また唇、眉、頬の至る所、そしてまた唇とシノの顔中余すことなく触れるだけのキスをする。

「……顔だけ?」

しかし、それにもシノはまだ不満である。自分の容姿は贔屓目に見ても優れているとは言い難い。
平凡、地味ががしっくりくる。神様がマニュアル通りに目はここ、口はここ、鼻はここ、と言った風になにか片手間に並べた、特に何の変哲も特徴もない顔。パーツ自体どれをとっても普通としか表せない。強いて言うなら赤茶色の髪色はこの学園の生徒にはあまり無い珍しい色だが、郊外の田舎に行けばよくある芋臭い色だ。

そんな自分の顔が好きだなんて、到底シノには理解できなかった。

「この可愛いことばっか言う口も」

ぴん、とシノの唇に指をかけ弱い力で弾くように撫でるソー。

学園の心無い生徒たちからは顔だけはとんでもなく美しいソーとよく比べられて、不釣合いだの不相応だのとよく揶揄される。他人の言葉など気にすることはないが、自分でそう思い込んでしまうと他人の言葉がよく心に刺さると言うもの。シノ自身も容姿でソーと釣り合っているつもりは全くなかった。

「…ソーなら、もっと、可愛い子とか…かっこいい子、いくらでも選べる…」

言葉にした瞬間、言うんじゃなかったとシノは後悔した。自分を選んでくれたソーに申し訳ないと思ったと同時に、心の中でぐるぐると回るソレを口にして外に出したことにより、再びシノの心を抉ったのだ。

その通りだ、ソーなら多少性格に難はあるが、もっと条件のいい相手を容易く見つけられる。
それを言葉にして自分に突き付けたことでシノは深い溜息を吐き、同時にソーの胸板に顔を押し当てた。

「俺はシノがいい」
「……怒った?」
「ンなことで怒るかよ」

自分を愛してくれるソーを疑うような、否定するような酷い言葉を吐いたと言うのにソーは甘く優しい。シノに無償の愛を捧げてくれる人だ。

「…どうしてそんなに優しいの」

ソーに合わせる顔がなく、シノは顔を上げられない。ぐりぐりと頭を押しつけるようにソーの胸の中に閉じ籠る。

「さあ。シノにもっと好きになってほしいから?」

下心ありまくり、と笑う声がする。目視することはシノの今の体勢では叶わないが、脳裏に悪戯っ子みたいに笑うソーの姿が思い出される。

「…そんなことしなくても。俺はソーが1番大好きで、大切だよ」
「俺もだ」

しかしそれでは堂々巡りである。
だが、頭を撫で再びリップ音をいくつも鳴らすソーにシノはだんだん気をよくする。
その手つきは優しく、絡まる足はほんのり厭らしく。ぶつかった瞳は吸い込まれるようにまっすぐで、こんなにも自分を好きだと叫んでいる。言葉はなくとも態度や表情で伝わると言うのに。

(悩むのが、ばからしいなあ)

切り替えの早さはシノの長所の一つだろう。すっかりご機嫌になったシノは今度は自分からソーにキスを求めた。

顔だけじゃなく、そんなシノの性格も含めて好きだと言うことも、ソーにとっては今更過ぎて言葉として形に出せない。シノをシノたらしめる、シノという人間、人格を形成する全てが好きだと伝えるにはまだまだ時間がかかりそうである。





……

翡翠さま、いかがでしたでしょうか、無事にシノとソーの溺愛ラブラブストーリーをお届けできたでしょうか。

翡翠さまに限り転載可とさせて頂きます。
リクエストありがとうございました!





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