花より殺人2

江戸川さんが博士から「殺人事件を目撃してしまった!」と通常なら一生で一度するかしないかレベルの内容の電話を受けたのは、私がお賽銭箱に小銭を投げ入れ語学力アップを願ってすぐのことだった。真っ先に現場へと走り出したのは江戸川さんとジョディ先生で、そこから少し遅れて哀さんを含むお子様達が後を追う。
私は全く行く気がなかったので出店に寄って団子を買っていたのだが、私が着いてきていないことに気付いたお子様達が迷子になったのだと勘違いして「早希子ー!!」「さっちゃんこっちだよォー!!」「早く来てくださァーい!!」と叫んでいたので団子片手に渋々合流した。私じゃなくて警察を呼べよ。


米花町の警察は事件慣れしているのですぐに目暮警部と高木刑事がやってきた。彼らと共に、目撃者の博士と現役FBI捜査官のジョディ先生、でしゃばりメガネの江戸川さんと団子を持った私で遺体を囲む。
…………なんで私はここにいるんだ……?と団子を頬張りながら、現場に立ち会う自分の姿を俯瞰し困惑した。
誰もツッコミを入れてくれないから普通にいるんだけど、なんで私はここにいることを許されているんだ……?そもそもお子様達は私を呼んでおいてどこに行った……?
不安になって、ちらちら周囲を確認していると「どうした、早希子君?何か気になることでもあるのかな?」と目暮警部が私を不思議そうに見た。すごい、何故か普通に意見を聞いてくれる。
私が子供達の行方について尋ねると目暮警部ではなく江戸川さんが「あいつらは……」と言いかけたところで探偵バッジが鳴った。皆は江戸川さんの指示で被害者が掏った財布を探しに行っていたらしい。何もかも手際が良すぎる。
突然発生した事件に対して怯むことなく無駄な行動を一切しない江戸川さん達に感心しながら団子を食べ進める。食べ終わって串だけ残ったので「ゴミ捨てて来ます」と言って、そそくさと現場から離脱した。一旦現場に入ると何故か誰も私を追い出そうとしないから怖い。もう解決するまで離れておこう。

お子様達に見つからないように出来るだけ遠くへ向かう。ある程度進むと事件のことをまだ知らないのか、花見を楽しむ人々による平和な光景が広がっていた。これこれ、これだよとホッとする。あそこは息苦しかったな、と解放感から伸びをしていると、どこからか視線を感じた。同時に、ドンッと肩に衝撃を受ける。

「あ、すみません」

人にぶつかってしまったので反射的に謝る。謝罪の言葉を口にしてから相手の顔を確認するとマスクを付けた男性がいた。

「あれ、君はさっきの……」

マスクの男性は私と目が合うと随分なガラガラ声でそう言った。彼は先程、手水舎の辺りでジョディ先生に話しかけていた人だった。風邪を引いているらしく、ゴホゴホと咳をする。
私は直接会話をしたわけではないが、ジョディ先生の連れの一人として彼の記憶に残っていたようだ。話すことはないが、無視するわけにもいかないのでペコ、と頭を下げておく。

「あー、いた!さっちゃんとお話してるー!」

すると突然、後方からあゆみんの声が聞こえてきた。幻聴かと思ったが振り返ると高木刑事を連れたお子様達がこちらに向かって元気よく走ってくる姿が見えた。
一番最初に私の下へ辿り着いたのはミッチーで、足を止めると私とマスクの男性を交互に見てから感嘆の声を上げた。

「流石さっちゃんさんです!もう見つけていたんですね!」
「何が?」

何のことやら、と首を傾げる私にミッチーは尊敬の眼差しを向けた。何もしてないのに勝手に好感度上がるなよ。
数秒遅れてやってきた高木刑事が、警察手帳を見せながら私の隣にいたマスクの男性に声を掛ける。どうやら彼らはこの男性を探していたらしい。
お子様達は私を囲みながら「あと二人ですね!」「おじいさんとお姉さんだね!」「この調子でどんどん見つけてこーぜ!」と嬉しそうに言った。よくわからないけど私を囲むな。

***


その後、お子様達によって私も現場に連れ戻され、なんか色々あって最終的に事件は解決した。
謎が解けたらしい江戸川さんが衆人環視の中で堂々と博士の声を出し始めた時は目を疑ったが、誰も何も言わなかったので私も黙って見守るしかなかった。いつの間にか江戸川さんは推理ショーの時に隠れることをやめたようだ。規制線の向こうの野次馬達にどれだけ不審そうな目で見られようと、とりあえず目暮警部に見えていなければセーフみたいなルールでやってるらしい。
とは言え、途中で変声器を持った江戸川さんが博士の真横に並んだ時は流石に黙っていられず「あの、見えてますよ……」と声をかけたら「うん、そこに見えてるよね。靴紐が!」とぶりっ子コナンモードで返された。何のことかと思ったら『靴紐が犯行に使われた』という話だったらしく、そのまま高木刑事が犯人の靴紐に血痕が付着していることを確認し、動かぬ物的証拠により逮捕へと至った。私の苦言がエンターテインメントの一環として利用され誠に遺憾である。

野次馬の視線が連行されていく犯人に集まる中、私は江戸川さんに呆れた目を向け続けた。今回の彼の立ち回りは反省会が必要なレベルで本当に酷かった。これでよく「オレの正体がバレるわけには……」とか言えるよ。“慣れ”が出てきてしまったんだろうか。
悪い傾向だな、と思っていると容疑者の一人として呼ばれたマスクの男性に江戸川さんが声を掛けた。そのまま「なんで風邪引いてるのに神社に来たの?」などと無実の彼をいきなり詰め始めた。
殺人事件は無事に解決したってのにすぐこれだよ。勝手に第二部始めるじゃん、と心の中でマスクの男性に同情しつつ特に止めないで見ていると日傘を差した妊婦さんがやってきて「私のためにお守りを買いに来たんでしょ?」と言った。彼の奥さんらしい。

「この子の為の……」

お腹に手を当てた奥さんは、そこまで言いかけて止めた。何故か私をじっと見ていた。その反応に、一瞬知り合いかと思って記憶を探ったが全く心当たりはない。
私達の間に謎の沈黙が降りる。不安になってジョディ先生の後ろに隠れながら「私に何か……?」と尋ねると奥さんは、ふっ、と小さく微笑んだ。

「ごめんなさい、あなたとっても可愛いからつい見ちゃったわ。アイドルみたいね」
「ああ、よく言われます」

本当によく言われることなので正直に決め顔で答えると一拍置いてから旦那さんの方が「……、アハハ………」と完全に“間を持たせるためだけ”という感じの笑い方をした。めちゃくちゃ引いてるじゃん。
奥さんは即答した私にちょっと面食らったみたいだが、すぐににっこり笑った。

「正直なのね。でも、そういうところも魅力的だわ」

私をまっすぐ見てそう言った彼女に、もしかしたら女優時代の母を知っている人なのかもしれない、と思った。

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