戦争終結から約七ヶ月後、波風ミナトという男性が四代目火影に就任した。
自来也様の弟子で、木ノ葉の黄色い閃光という二つ名を持つ他国でも有名な忍者。そして第三次忍界大戦の功労者の一人でもある。
実力は十分、人望もあり、彼の火影就任に異を唱えるものは“殆ど”いなかったらしい。
その波風ミナトのことは私も知っていた。うっすらとした記憶だが、確か彼はカカシ先生の昔の先生で、ナルトのお父さんだ。
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先日任務で怪我をして帰ってきた上の兄は、大事をとって暫く任務を休んで家に居た。
久々に長く家にいる上の兄と一緒に私は外へ出た。私達は二人で出掛けたことがなかったので、餡蜜でも食べてこいと母に家から追い出されたのだ。兄さん平気そうな顔してるけど一応怪我人なのに。
上の兄は滅多に家にいないし、13も年が離れているので会話らしい会話も殆どしたことがない。だから二人で出掛けるというのは中々難易度の高いものだった。下の兄と違って、真面目で無口な人だし。
兄も兄で、私くらいの年の子の扱い方がいまいちよく分からないらしく、家を出てからずっと私の手を握っている。迷子防止のためだろうが、8歳なら別に手を繋いでいなくても大丈夫じゃないかな?
そう思ったが、私の歩幅に合わせてゆっくり歩く兄にそんなことを言えなかった。なにこれ、むず痒い。
この通りからも見える火影岩の方に目をやると三つだったはずの巨大な顔は四つになっていて、新たな火影の顔が大きく刻まれていた。
「やあ、傷はもういいのかい?」
突然上から聞こえてきた知らない声に驚いて肩を揺らす。
気付いたら足を止めていた隣の兄が「四代目様」と口にした。知らない声の主は、ついさっきまで見ていた岩壁に刻まれたあの顔の人だった。
「そんな呼び方しなくていいのに」
「そういうわけにはいきません」
「その話し方もさ、俺達、昔から一緒の友達だろ?少なくとも俺はそう思ってるけど」
「そりゃ、別に思ってない訳じゃないけど…」
四代目火影、波風ミナトは兄のその答えに満足そうに頷いた。え?友達?マジで?
妹ながら私は上の兄のことをよく知らなかった。だからこの事実に驚くしかない。というか、この人達同年代だったの。
目を丸くしている私に、上から視線が注がれる。四代目火影は私を見ていた。
「そっちは妹さん?」
「ええ、ほら、挨拶」
「こ、こんにちは。南部アザミです」
兄に促され、やや緊張しながら挨拶をすると四代目火影は、態々私の目線の高さに合わせて腰を曲げてから「こんにちは」と笑った。
「ねえ、ちょっとアザミのこと抱っこさせてくれない?実は、俺も父親になるかもしれないんだ」
「ああ、良いですよ」
兄が答えて、私の肩を軽く押す。
え、ええ?抱っこって、幼稚園生じゃないのに。
「あの、私、8歳だから重いですよ」
素直にそう言うと四代目様はきょとん、とした後、にっこり笑って「大丈夫だよ」と私の脇に手を入れて抱き上げた。
「ほら、軽い軽い」
子供と言えど、私はアカデミーにも通っている。こんな風に大人に抱っこされるのはもう随分久し振りだった。つい照れ臭くて顔を背けてしまう。
私はこの人のことをよく知らない。ナルトのお父さんなのは知っているけど、どういった人なのか、この先どうなるのか詳しくは知らない。
でもナルトは自分の親を知らなかった。つまり、ナルトはこんな風に抱き上げてもらえないんだ。
視線をさ迷わせているととある少年と目があった。少年は私を見て驚いていた。
「あ、カカシ」
人の気配に気が付き、振り向いた四代目火影が少年の名を呼ぶ。
久しぶりに見かけたカカシ先生は、いつの間にか漫画と同じように片目を額当てで隠していた。
