同盟条約後、初めて砂の里との合同演習が行われた。私にはまだ関係ないが、これからの中忍選抜試験は合同で行うらしい。今はまだ砂隠れだけだが、将来的には風の国以外の他国もここに加わるのだろうか。
9歳になったが、私はまだまだアカデミーを卒業できそうにない。例年、この歳になると実力のある子は先生から「卒業試験を受けてみないか?」というお話を頂くらしいが、戦争終結に伴い、アカデミーのカリキュラムが変更されたため、飛び級による卒業は余程のことがない限りはなくなってしまった。今後は12歳、早くても11歳での卒業が一般的になっていくんだとか。
火の国は他の国に囲まれたような形に位置しているのでまだまだ安心はできないが、砂との同盟で一応の平和が訪れたのだろう。そのため子供を無理矢理戦場に出す必要はないと判断し、卒業年齢を上げたわけだ。上の年代から見れば、私達はゆとり世代みたいな感じかな。
まあ、学ぶ時間が増えればその分能力も付くので、優秀な忍を輩出するにはむしろこの方がいいと思う。私は印を組むのもまだ苦手だから、ゆっくり勉強したい。
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それは突然のことだった。全く知らなかったわけではないけど、具体的にいつ起こることなのかは知らなかったから、本当に突然のことだった。
兄が死んだ。二人ともだ。
兄だけじゃない。多くの里の住人達が犠牲になった。忍も忍以外の人も関係無く、四代目火影とその妻も。
九本の尾を持った化け狐に里が襲われ、それを止めようと最前線へ駆り出された者達と巻き込まれた民間人が亡くなったのだ。二次災害も酷いものだったが、里はなんとか壊滅を免れた。
警務部隊の誘導により、私は両親と避難していたので無事だった。下忍は警務部隊と一緒に避難誘導に当たっていたが、アカデミー生の私は庇護下にあったため民間人と同じ扱いを受ける。だからこの事件がどう始まってどう終息していったのか、私は何も知らない。わかるのは多くの人の命が失われ、その中に兄達が含まれていたことだ。私はこの第二の人生で初めて本気で泣いた。
アカデミーも半壊したため、暫くの間休みになった。アカデミーにも親や兄弟を亡くしたという子が何人かいて、てっちゃんもそのうちの一人だということを私は犠牲者の追悼式で初めて知った。てっちゃんは唯一の家族だったお姉さんを亡くしたらしい。
私の兄達とてっちゃんのお姉さんは任務中の殉職であるため、慰霊碑に名が刻まれた。
母は憔悴しきっていたので兄達の遺品整理は私と父で行った。
初めて入る兄達の部屋を、何か変なものでも見つかったらどうしようかと若干の期待を込めて隅から隅まで探したが、何もなかった。初めからこうなる事が分かってて身辺整理をしていたのではないかと思うくらいどこまでも普通の部屋だ。実際、していたのかもしれない。
特に上忍だった上の兄は常日頃から死を覚悟していたのだろう。本人の性格も関係しているとは思うが、彼の部屋は必要最低限のものしか置いていなかった。あの人、趣味とかあったのかな。驚くくらい殺風景な部屋の真ん中でぼんやりと思った。
同じ母から生まれ同じ家で暮らしていたというのに、私は二人の事を何も知らない。せめて日記でもあればと思ったが、忍の性かほんのメモすら見つからなかった。
その日の夕方、私が以前出会ったゲンマさんを始めとした兄達と親しくしていたという方々が家を訪れてくれた。その中にはアスマ先生など漫画によく出ていたキャラも何名かいて、兄達が彼らと同年代であったことを初めて知った。
けど、アスマ先生らと同年代だと思われるカカシ先生の姿は何処にもなかった。まあ、別に仲良くなかったんだろう。
初めてカカシ先生を見た日のことを思い返してみれば、確かにあの時の兄は微妙な反応だった。友達の友達みたいな感じか。同年代が皆仲良いなんて有り得ないし、変なことじゃない。
とりあえずガイ先生は私よりも号泣していてすごく良い人だと思った。でも濃い。まだ10代のはずなのに濃い。
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四代目火影・波風ミナトの死亡に伴い、五代目が決まるまでの代理として三代目の猿飛ヒルゼンが再び火影の座についた。あの波風ミナトが今となっては本当に存在していたのか、彼と話したのは夢だったのかと思ってしまいそうになるくらい四代目火影の任期は短かった。
半壊したアカデミーの復旧はまだまだ掛かりそうで、使える教室の数が減ってしまった分どうも授業が進まない。卒業年齢である12歳に達する子達の授業を優先して教室が埋まっていくので、それ以外の子達は以前よりも授業時間が遅くなるか自宅学習が主となりつつあった。
自宅学習と言われても身内を亡くしたばかりでやる気も出ず、結局私は心配して来てくれたキク君と一日何もせずにぼんやり過ごすことが多かった。
今回の件でアカデミーを辞めてしまった子もいる。それだけあの事件は皆の心に大きな爪跡を残していった。
そしてあの日以来、里の住人達の間でひっそりと囁かれるようになった話があった。
里を襲った化け狐は、三代目火影が後見人となったとある赤ん坊の身体に封印されている。
何処から漏れたのか知らないが、あくまで噂として流れ出したその話が、ナルトを孤独に追い込んだわけだ。
