「今日は良い天気ね」
なんて目を細めて私に話し掛ける女性。私はそれに何も返さない。無視してる訳じゃなくて話せないのだ。
「アザミちゃんは全然ぐずったりしないから楽だわ」
偉いねぇ、と女性が続けると彼女の腕に抱かれている私の身体はゆっくりと揺れた。それがとても心地よく私は無意識のうちに目を閉じていた。
名前は南部アザミ、元女子高生(17歳)で現赤ちゃん(生後五ヶ月)。そろそろ離乳食始まります。
どうしてこうなったのか私にもよくわからない。いつも通り寝て起きたら赤ちゃんになってた。ただそれだけ。覚えている限りの自分の行動を思い返してみたが、きっかけはどこにもなかった。誰かに呪われでもしたのか。
そんな風に考え初めて三ヶ月後。うーん、わかんない!ということで原因を探るのは諦めた。代わりに私は今置かれている状況の詳細、自分の今後について考えることにした。
まず私をあやしている女性。こちら、母です。
彼女は金髪だった。染めてるとかじゃない、恐らく本物の金髪に碧色の瞳。でも話しているのは間違いなく日本語だ。しかも私が普段過ごしているのは畳の部屋だったので、多分ここは日本で、母は日本で長く過ごしている方なんだろう。
私が一人目の子供、と思いきや兄が二人いた。十三歳と九歳。おいおい随分大きいお子さんじゃないか。
私とやけに年が離れていることが不思議で、もしや異母兄弟とか養子とか色々あるんじゃないかと思ったが、下の兄はしょっちゅう私と母の側に来るし、上の兄も誰もいない時に来ては私の頬をつんつんして無言で去っていくので仮にそういった事情があったとしても家族間に妙な隔たりは無さそうだ。お触りは一回千円ですよ。
家族の会話や家の中の物から今の状況について私なりに整理をした。母に背負われた状態で家の中を回り、私は違和感を持った。冷蔵庫はある、テレビもある、けれど電話はない。
今の時代でこんなことが有り得るのだろうか?ついでにパソコンもなかったが、それは今でも必要のある人とない人がいるのでそこまでおかしくない。でも電話がないのは流石におかしい。
私の家は商家であり、生活に困窮しているようには見えない。むしろ家の広さから裕福な方だろう。
母に抱かれて店に出たこともあるが、うちは髪飾りや化粧道具、帯締めや小物を入れる袋物など和装に合わせるやや古風な物を取り扱っている、所謂“小間物屋”というやつだ。お隣さんが呉服屋で、ご近所さんには二店セットのような扱いをされているらしく、常連さんも多い。客商売なら余計に電話がないのは不便だろうに、携帯電話を持っている様子もないのだ。
私の家族が特殊なんだろうか。電話なんか使わない、うちの商品が欲しいなら直接店に来い、みたいな?
と思っていたが、母と初めて外へ散歩に出て私はとんでもない事実を知った。
「ほら、見てアザミちゃん。あれが火影岩よ」
遠くからでも分かる岩壁に彫られた巨大な三つの顔。里で一番強い忍者の顔が彫られるのだとまだ赤ん坊の私に母は言った。おい、ここナルトかよ。
