番外編2

※原作の波の国編から中忍試験編までの間の話※



秘書として、忍者として、長らく通っていた任務受付所に依頼人として訪れるのは不思議な気分だった。
入り口を通ると真っ先に目につくのは長テーブルと『任務受付はこちらまで』の文字、何も変わっていない。私が忍者を辞めてからそんなに経っていないが、なんだか随分久し振りのような気がした。

「それでさ!それでさ!!もっと俺が活躍できる任務ねーの!?」

受付の前に見覚えのある後ろ姿が数名。そのうち一人が何やら大騒ぎしている。
少し聞き耳を立てると任務の選り好みをしているようで、受付テーブルに座っていたイルカ先生が「やかましい」と叱っていた。彼らが何か任務を引き受けるか、諦めて帰るかしない限りこの話は続きそうだ。

「すみません、任務の依頼してもいいですか?」

どうも長引きそうだったので先に通してもらおうと後ろから控えめに声をかけるとその場にいた全員の目が私へ向いた。

「アザミ」
「アザミの姉ちゃん!」
「アザミちゃん」

同時に私の名前を口にした三人は顔を見合わせた。一瞬だけ時が止まる。最初に時を取り戻したのはナルトで、弾かれたように私の側までやってきた。

「なになになに!何の依頼!?護衛!?討伐!?」
「アザミはお前より強いんだ。護衛なんか必要ないし、討伐も自分でできるだろ」

私を過大評価しているサスケによって二度と護衛も討伐の依頼もできなくなった。なんてことしてくれるんだ。

「……フン、俺より強いってことはサスケよりつえーってわけだろ。お前こそ必要ねーってばよ」
「なんだと……?」

しかもなんか喧嘩始まった。
特に止める気配のないカカシ先生に会釈をしてから彼らの横を通り抜けて「お願いします」と受付のイルカ先生へ依頼書を手渡す。イルカ先生は「うるさくて悪いな」と小さく謝ると私から受け取った依頼書の内容を確認し、問題がないとわかると「このランクで受理する」と言って印を押した。
それを隣の火影様へ渡す。火影様は依頼書を見ると「第七班向きの依頼じゃな」とにっこり笑った。

「何々!?俺がやるってば!」

話を聞いていたらしいナルトがサスケを押しのけるように前へ出る。
期待に満ちた目でこちらを見てくる彼に、私の依頼内容はこの上なく言いづらかった。きっと子供のお手伝いのような依頼ばかりで退屈してるんだろう。何か忍者っぽくて自分にしかできないような、そんな任務をやりたいんだろう。
火影様の口から説明してくれないだろうか、と視線をやるが火影様はニコニコしてるだけだった。だめだ。言うしかない。

「千羽鶴を一緒に折ってほしいんですけど、お願いできます?」

私が班のメンバー全員に向かってそう言うとナルトは膝から崩れ落ちた。ご、ごめん。


***

先週から折り始めた千羽鶴の進捗は三百七十羽ほど。相当頑張ったが、まだ半分もいっていない。
私とキク君、私の両親、テンテンの南部家総出でひたすら折っていたが二百羽を越えたあたりで「もう鶴なんか見たくない」と全員ギブアップ。ご近所さんやお店のお客さん、ゲンマさん達など有志の皆さんが手伝ってくれたが先はまだ長い。
どうしようかと悩んでいたら、鶴に追いかけられる悪夢をみたらしいテンテンが「Dランクで依頼出せば?」とアドバイスをしてくれたので用紙に必要事項を記入して受付に持っていったという次第だ。

子供のお手伝いレベルの任務に肩を落としつつも無事に引き受けてくれたナルト達第七班のメンバーを連れて自宅へ戻る。離れへ足を踏み入れたナルトは「おお〜っ!」と歓声を上げた。

「すっげぇ!広い家だな〜!」
「ここは離れだから母屋よりは狭いぞ」
「へえ〜、ってなんでサスケ君が知ってるの?」

ピンク髪のサクラの質問を無視してサスケは「トイレはあっちだ」と案内を始めた。助かる。私が代わりに「時々遊びに来るんだよね」と答えたら、サクラは普段聞けないサスケの交友関係を知れて少し嬉しそうにしていた。 
家の案内はサスケに任せて台所から人数分のお菓子と飲み物を持っていくとカカシ先生が「悪いね」と言いながらトレーごと受け取ってくれた。

「旦那さんは?」
「店に出てます」

店を通らず裏から入ったので、表の様子はわからなかったが、我が家は今日もばっちり営業中である。
別の部屋から折り紙と作成途中の千羽鶴を持ってくるとナルトは壁や棚の上に飾ってある写真に興味が移ったようで、彼にとっては殆ど知らない人だらけの写真を楽しそうに眺めていた。「ジロジロ見たら失礼でしょ」と言いつつサクラやサスケもそれに続く。
盛り上がってるナルト達を見て、イタチの写真を片付けておいて本当によかったと思った。イタチが映っている写真なんて一、ニ枚(班結成時に伝統だからと撮ったやつ)しか持っていないし、サスケが時々来るので元から隠すようにしていたが、カカシ先生も暗部で関わりを持っていたはずなので目に入ると色々気まずいだろう。何よりイタチの存在は里全体でタブーとして扱われている。
そのため今飾ってあるのは古い家族写真とか、キクくんや夕顔ちゃんとのツーショットとか、辞める直前にガイ班のみんなと撮った集合写真とか、誰が見ても問題ないものばかりだ。問題のある写真って言い方もおかしいが。

「なあ、このにーちゃん達は?」
「それは私の兄さん達」
「へー、アザミの姉ちゃん兄貴いるんだ」

ちょっと羨ましそうな顔をするナルトの横で、サスケがちら、と私を見る。そういえば会ったことないぞと言う顔をしていたので「サスケと会う前に亡くなったの」とこっそり伝える。突然の激重情報を告げられたサスケは少し気まずそうにした。

ふと、カカシ先生の視線が一枚の写真に注がれていることに気が付く。それは上の兄と四代目火影、波風ミナトが二人で映った写真だ。二人共まだ幼いので下忍か中忍の頃に撮ったものだろう。遺品整理の時に見つけて両親に頼んで私が貰った大切な一枚だった。
声をかけるものでもないと思って、テーブルに持ってきた折り紙を広げた。

「なんてゆーか、古い写真が多いんですね」

サクラが言う。確かに言われてみれば直近に撮影したものは少なかった。下忍の頃はともかく中忍になってからはあまり自分の姿を記録されたくなかった。一種の職業病である。
そもそもこの世界のカメラは持ち運べるような小型サイズではなく、写真家を呼ぶか写真館で撮ってもらうのが基本なので気軽に一枚、という話にならないのだ。

「そういえば、大人になってからはあまり撮ってないかも」
「じゃあさ!じゃあさ!!今から皆で撮ろうぜ!」
「バカ!今から鶴折るんでしょーが!」

全くもってその通りである。サクラに叱られて凹むナルトを可哀想だと思ったが、お菓子食べて解散、というわけにもいかないので仕方がない。

「じゃ、無事に終わったら皆で撮るか」

いつの間にか写真を見るのを止めていたカカシ先生が言う。
ナルトが「よっしゃーー!」と大袈裟に喜ぶのを諌めつつ、サクラも「ま、私は良いけど……」とサスケを見てもじもじしていた。サスケは無言で私を見る。カカシ先生に「アザミちゃん、それで良い?」と聞かれたので頷いた。





「ちょっと、ナルト。なによその下手くそ!」

サクラに注意され、細かい作業が苦手なのか苦戦しながら鶴を折っていたナルトはビクッと肩を揺らした。

「人に渡すものなのよ?もっと綺麗に作れないの?」
「で、でもさサクラちゃん!俺より下手なやつもあるってばよ!」

ナルトは完成している鶴の中から、明らかにズタボロな個体を見つけて掲げた。シダ先生のお子さん(7歳)が折ってくれたやつである。
アザミさーん、とサクラがこちらを見る。ナルトに何とか言ってやってくれ、という目だ。

「個性的で良いと思うよ。多様性の時代だからね」
「そうなの?」
「面倒だからそう言ってるだけだ。アザミは結構適当な奴だからな」

私の適当な料理の味つけをよく知ってるサスケが言った。
作業開始から一時間ほど、五人で黙々と折り続けていたが子供達はそろそろ集中力が切れてきたらしい。ナルトが「終わんのか?これ…」と手つかずの折り紙を見るとサクラが伸びをしながら「千羽鶴って五人でやるもんじゃないわよね……」と呟いた。確かに、刑務作業かと思うよね。

「そもそもアザミさんはどうして千羽鶴が必要なの?」

サクラが言った。そういえばまだ言っていなかったかと手を動かしたまま口を開く。

「てっちゃん……友達が任務で大怪我をして長期入院になったから折角だし折っちゃおうかなって。私、千羽鶴ってやったことないし」
「ノリ軽っ」
「ま、いーんじゃない」

カカシ先生がそう言うとサクラはあまり納得していないようで「も〜〜!」と口を尖らせていた。

「でも、その友達のために鶴を折ってくれる人があまりいなくてね。大変だから依頼しちゃった」
「ふ〜ん。その友達、人望ねーなぁ」
「まあ、感じ悪いからね。私もあまり好きじゃないし」

包み隠さずそう言うと子供達にオイオイ……みたいな顔で見られる。

「けど、お互いが一番辛い時からずっと一緒にいた友達だから」

兄達が死んだ時を思い出す。姉を亡くしたてっちゃんにとっても同じ痛みを分かち合える私がすぐ側にいたことで心を強く持てた部分もあった……かもしれない。それにチームメイトの里抜けも一緒に経験した。てっちゃんはイタチのことが大嫌いだったけど、一族を殺して里を抜けた彼について一言も悪く言わなかった。本当はずっと前からイタチを認めていて、大事な繋がりの一つだと思ってたんだろう。
辛い記憶を共有できる相手がいることは、私にとっては救いであった。
皆の視線を感じて口にするのが少し恥ずかしくなったが、やや間を空けてから「大事な友達なんだ」と続ける。

「なんかいーな」

テーブルに顎を乗せたナルトが、ぽつりと言った。本当に、純粋に羨ましく思ってるようだった。
するとインターホンが鳴る。皆に断りを入れて玄関に向かった。


「遅くなってごめんなさい。これテツくんに」
「ありがとう夕顔ちゃん」

来客は紙袋を持った夕顔ちゃんだった。中身はざっと五、六十羽ほどはある折り鶴。
大変だったでしょう、と言えば「手伝ってもらったから」と返ってきた。夕顔ちゃんはハヤテさんと上手くいってる。
ちなみにてっちゃんは結構前に夕顔ちゃんへの想いを吹っ切ったらしく、今はうちの隣の呉服屋の看板娘となんだか良い感じになっているみたいだ。将来的にてっちゃんがお隣さんになるかもしれないと思うと私はすごく嫌だった。マジ無理。


***


「じゃ、そろそろやりますか」

作業開始から三時間後、カカシ先生はちら、と私を見るとそう言った。
私が口を開く前に、印を組むとカカシ先生が二人に増える。上忍クラスなら余裕で使えるが、下忍には難しい会得難易度Bクラスの忍術、影分身の術だ。
残像を生みだすだけの分身の術と異なり、影分身の術は実体を持つ。つまり単純に人手が増えるのだ。
サクラが「おお〜!」と喜ぶとサスケがフン、と鼻を鳴らした。

「何がそろそろだ。どうせ忘れてたんだろ」
「いや?お前らが怠けるといけないと思ってやらなかった」
「ごめん、私は普通に忘れてた」
「アザミちゃん、台無し」

私の性格への理解度が高いサスケは「ほらな!」と呆れた目で見てきた。
いや、確かにそう。私はもう現役じゃないんだからチャクラ温存とか気にせずガンガン影分身すればよかった。そしたら多分もう少し進んでたはずだ。私ってアホだったのか……とちょっとショックを受けているとナルトが「それだァー!」と目を輝かせて立ち上がった。

「へへっ!これだったらサスケじゃなくて俺が活躍できるんだってばよ!」

嬉しそうにそう言うとナルトは印を組んだ。
カカシ先生のようにナルトが増殖する。しかし数が明らかに多い。部屋はナルト達で一気に埋まって、廊下にまで溢れ出た。これは多重影分身の術だ。
脳内で、前世の記憶を持つミーハー女子高生の私が「わー!すごい!漫画のやつ!本物!」と騒ぐと同時に木ノ葉隠れの忍術事情を知っている元上忍の私が「え……これ……禁術じゃね……?」と困惑した。咄嗟にカカシ先生(本物)を見たが何も言わなかった。容認されてる。いや、黙認か?流石主人公。
まあ多分許されてるんだろう。適当に納得して私も影分身の術を使う。


一気に人手が増えたおかげで作業スピードは先程までとは比べ物にならないほど上がり、途中で何羽折ったか分からなくなるハプニングにも見舞われたがなんだかんだで目標個数に到達し、人生初めての千羽鶴を完成させることができた。
形が絶妙に鶴じゃなかったり、片翼だったり、脚が生えていたり、事故にあってたり、一回り小さかったりと全部繋げてみると若干歪ではあるが、まあこれは多様性ってやつだ。みんな違ってみんな良い。

「みんなに依頼してよかった。本当にありがとうね」

完成品を抱えて感謝の言葉を口にすると子供達三人は照れたように笑った。
ここで本来なら依頼は終了だが、思ったより早く終わったので折角だから、とそのまま家を出て全員で病院へ向かった。
サクラが途中のやまなか花店でお見舞いの花を買おうとしたので「てっちゃんは情緒死んでるからお花はいらないよ」と言ったらドン引きしていた。



「てっちゃん、来たよ〜!」

見知らぬ子供三人と超有名上忍一人を引き連れて病室に入ってきた私を見て、てっちゃんは分かりやすく顔を顰めた。
ナルト達はてっちゃんに遠慮ない視線を注ぐと三人固まって「イメージ通り」「友達いなそ〜」とぼそぼそ喋っていた。ばっちり聞こえてる。忍者の聴覚をわかってない。

「はい、みんなからお見舞いの千羽鶴」
「は?いらねぇわこんなゴミ」
「今のは“ありがとう感動したよ”って意味だから。みんな気にしないでね」

平気でこちらの努力と好意を無下にするような一言にフォローを加える。
ちなみにナルトの活躍により目標の千羽を超えて約千二百羽いるので実際は千二百羽鶴だった。
これをゴミ呼ばわりは流石に皆も気を悪くしただろう。喧嘩が始まるかも、と心配するとナルト達は呆れたようなため息をついていた。

「ったく素直じゃねぇ兄ちゃんだってばよ」
「てゆーか大人なんだからもっと言い方には気を付けた方がいいわよ」
「気にかけてくれるアザミに感謝しろよ」

うわ、これは効く。
子供三人に窘められたてっちゃんが大人げなくブチ切れている間、とりあえず私とカカシ先生は勝手に歪な千二百羽鶴を飾った。とっても良い感じ。
怪我人とは思えない動きで点滴を振り回すてっちゃんを昏倒させ、ナースコールを押した後、私達五人は約束通り任務達成記念として皆で写真を撮った。
受け取った写真を眺めながら帰路につく。この写真も飾らないと。
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