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「ふわぁー。おはよー、隆二。今日も眠そうだねぇー」
「……眠そうなのはそっちじゃないか?岸浪」
朝。時刻は7時40分過ぎ、我ら高等学校の学び手は、絶賛登校中なのだ。
結局あの後、一度も眠れなかったことで、正直歩きながらでも寝ろと言われれば寝られる状態なのだが。
「あいやぁ〜、昨日はちょおーっと予約してた番組がね?えへへ……」
隣を歩く女子生徒は、自分には世にも珍しい友人の岸浪葉月(きしなみはづき)。
幼い頃からの仲、いわゆる“幼なじみ”というやつだった。
彼女は自分だけではなく誰にでも人懐っこく、かといってその天然さ故か八方美人になることなく、誰からも好かれるという今ではこれまた世にも珍しい類いの人物である。
(まぁ、クラスのマスコットとして、かもしれないけど)
「んー?もしかして、今ちょこっと失礼なこと考えなかったかなぁー?」
「むむー?」と下からこちらの顔を覗きこむように見上げてくるものだから、思わずのけぞる。
岸浪は、たまに鋭い洞察力を見せることがある。大抵はこんなくだらない事柄に対してばかりだが。
「そんなことないよ。ただ、岸浪が幼なじみでよかったな、と思ってな」
「へっ?あ、そう?そっかぁー……へぇー、ふぅーん……」
しばらく辺りをせわしなくキョロキョロ見回してから、
「ま、今日のところはそういうことにしておいてやろうー」
などと言って鼻唄を口ずさみ始めた。
単純なのか、見逃してもらったのか。
彼女の真意は10年もの長い時間を過ごした自分にも測れないことがある。
女とはそんなもの。
いつしか岸浪はそう言っていた。
(そういう、もんなのかなぁ)
そんなことをぼんやりと考えていると、
風が吹く音がした。
どこからか、というよりかは、耳の中、頭の内側で響いたかのようなその音に、それまでの平和ボケした思考はいったん遮断される。
(この音は、もしかしてーー)
今朝、悪夢で目が覚めたときのことを思い出す。
あのときは僅かに風を感じただけだったが、何となく、これは同じ風なのではないかと思う。
理屈ではない。論も証拠も存在などしない。
ただ、何となく。直感のような、第六感のような何かが反射的にそう告げてきた。
「どうしたのー?遅刻しちゃうよぉー?」
「……いや、なんでもないよ。藤村先生に課題を押し付けられる前に行こう」
岸浪の声で風の音は止んだ。
さも、最初からそのような風は吹いてなかったかのような、その空気に不思議と違和感は感じなかったーー。
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