数年ぶりに会った友人はぐっと垢ぬけており、学生時代におっちょこちょいのいづみちゃんと呼ばれていた彼女の面影など一切感じられない程だった。彼女の雪の様に白い頬には、冬が明け、春を連想させるかのように満開に咲き誇った淡い桜色。口紅を施さずとも淡く光る唇。日に照らされ色艶の良いグレージュ色の髪の毛はさらりと吹く風に煽られる。ふわりと広がる様々な花柄が描かれたミモレ丈のスカートを抑えながら、私の名前を呼ぶ友人に小さく手を振り返して見せた。
「久しぶりだね〜!」
そう言って微笑む彼女の笑顔は、学生時代と同じ、屈託のない笑みで私は思わず小さく息を吐いた。
彼女、立花いづみは、中学時代からの仲であり、私の数少ない友人の一人である。数年前までは、数ヵ月に一度の頻度で会ってお茶を楽しんでいたのだが、彼女の職業柄と、私の休日出勤有りの職場のせいか、中々会う機会がなく、ようやっと会えたのである。
「いづみ何か雰囲気変わった?」
「…え?…あ!東さ…MANKAIカンパニーの劇団員の中でね、凄く中性的な雰囲気を持つ人が居るの。その人にやってもらったんだけど似合うかな?」
くるり、と彼女がその場で回ってみせれば、まるで色とりどりのお花畑で舞う蝶の如く美しいその姿に、通り過ぎる人々の熱い視線がいづみに向けられるのが分かる。その一人が私である。
「うんうん、可愛いよ」
立花いづみは可愛い。学生時代から顔立ちが整っており、並行二重にくりくりとしたまんまるのお目目。外国人の様な鼻立ちと、小さく添えられた可愛らしい唇。シャープなフェイスライン。身長は160センチ前後と私と変わらないのだが、女性らしい華奢な腕と程よく肉のついた脚。ふっくらと膨らむ胸元のサイズこそ分からないものの、そこそこの大きさを持ち、誰もが羨む容姿をしていた。そんな彼女の隣に、いつも惨めな思いで立っていたのが私である。不細工と言う程でもなく、それでは可愛いのか綺麗なのか。そう問われればどちらでもない。ごくありふれた容姿なのだ。だから、隣に立つ彼女と私を交互に見てはひそひそと話す声は何十回と聞いてきたし、はたまた直接私の心を刃物で抉るような言葉を投げかけて来た者もいる。
きっと彼女は何とも思っていない。何故なら彼女は驚く程優しく人情の厚い性格だからである。例に挙げれば、彼女が今働いていると言うMANKAIカンパニーと言う劇団は、元々いづみの父親が経営していた大きな劇団だった。しかし、いづみの父親が姿をくらませてから、太陽が沈むかの如く明るかった劇団は、みるみるうちに暗くなっていき、劇団員も居なくなっていったのだと言う。ある日、そんなMANKAIカンパニーは、借金を抱えてしまい取り壊される事となる。しかし、いづみは何千万ものの借金を抱えながらも劇団を持ち直し、数多くの劇団員をスカウトし、もう一度過去の栄光を取り戻したのだと言う。
この話は、彼女から直接聞いたものではない。偶々街ですれ違った同級生と中身の無い会話をしていた途中に、そう言えばと切り出されたのがきっかけだった。
偉業を成し遂げながらも、一般の私にこうして声をかけてくれるのは、いづみが私を下に見ているとかそう言った事は全くないのだ。ただただ、私と友人である。それだけなのだ。