男性の名前は有栖川誉と言う。年齢28歳。職業は詩人であり(詩人と言う職業があると言う事をはじめて知ったのは秘密である)、MANKAIカンパニーでは、春夏秋冬の内の冬に属し活動していると言うのだ。そして私が恐れていた何を話せばいいのか分からないと言うのは、徒歩1分以内に打ち壊される事となった。何故なら有栖川さんは、ひたすらに話す。外見からは想像つかない程の口先で、また詩人らしく、言葉の使い方が上手い。時々何を言ってるのかさっぱり分からない時は、察してか、意味をかみ砕いて話してくれる。それに程よく低いテノールボイスは大変心地の良い声色だ。
「苗字くんは、どんなお仕事をされてるのかね」
「あー…。お恥ずかしながら先日退職したばかりで、今はお休み中なんです」
退職とは酷く綺麗な言い方だが、実際はそんなものではなかった。大学卒業後、平日勤務、土日祝休日の職場の一見ホワイトそうな企業に就職したのだが、中身はそうではなかった。上司からのパワハラ、お局からの虐め、同僚の不倫や浮気話など、22歳にしては中々ハードな職場だった。だが若さ故、これが普通なのだろうと思い込み何かと上手くやってみせた。しかしである。26歳になった私は、どのタイミングかは定かではないが、職場の環境が異常であり、私も異常なのではと疑問を抱き始めた。そこから転がるように体調を崩し、今まで君は会社の宝物だなどとぬかしていた上司からはゴミ扱いをされ、付き合っていた彼氏からもフラれて転落生活を送っていたのだ。
「中々に大変な人生を送ってきたのだね」
「そう、なんですかね〜」
へらり、と笑って見せれば、有栖川さんは、子供をあやすように私の頭をぽんぽんと撫でた。その行動に一瞬ぎょっとしたが、酷く心地いい感覚をおぼえ、私は目を瞑り、その心地よさに溺れていったのだ。