Shrot story
01
「あ、ほら。日番谷君また寝てる。」
 隣の席の日番谷君は、いつも寝ていた。
 授業はちゃんと聞いている。でも、授業が終わる頃になると、必ず寝ている。
「よく寝るくせにちっこいわよね。」
「松本さん……。日番谷君が聞いたら怒るよ。」
「でも、ほんと。よく学校であんなに寝れるね。夜寝てないのかな?」
「さぁ。」
 私は、日番谷君の寝顔が好きだった。ずっと、眺めていられる自信がある。
 それは、単に彼の顔が整っているからとか、いつも眉間に皺を寄せている人があどけない表情をしているからとか、そういう事では無い。
 寝ている彼を見つめていると、周りの景色や音がボンヤリと霞んで、私の世界が日番谷君だけで満たされるような心地よい感覚があった。
 一度だけ、その事を桃と乱菊に話した事がある。すると、二人は至極嬉しそうにそれは恋だと断言した。
 私は、日番谷君に恋をしているのだろうか。

「ほら、円香。いつまでも日番谷見てないで、早くご飯食べに行きましょ。」
「ん。」
 乱菊に促され、私は鞄からお弁当箱を取り出した。
「……ごめん。」
「?」
「私、今日はここにいる。」
 ぴたりと二人は固まって、一緒に日番谷君へ視線を向けた。
「本当に好きだね。」
 桃は感心した様に呟く。
 先程まで五月蠅かった教室には、いつの間にか私達だけが取り残されており、すっかり静まり返っていた。
 おそらくもう皆食堂へ移動してしまったのだろう。
「可愛い円香の頼みは、いくら私達でも断れないわね。」
 乱菊は苦笑すると、颯爽と教室を後にした。
「何か進展があったら、ちゃんと教えてね。」
 桃も一言残してその後を追って行った。
 私はその背中を見送った後、じっと日番谷君を眺めてみた。
 窓際に座る日番谷君は、暖かな光を受けて気持ち良さそうに寝息を立てている。
 光が見事な銀髪に反射して、見えない壁を作りだしているように思えた。
 彼を見ているこの時間が好きだ――それが、イコールで彼が好きであると繋がるのか私には分かりかねるが。
「私は、日番谷君が好きなのかな。恋を、してるのかな。」
 寝ている日番谷君を眺めながら、頬杖をついて呟いた。
「あなたを見てると、とても満たされるよ。」
 光が反射するぐらいに白く透き通った日番谷君の頬に少しだけ嫉妬しながら、日番谷君と同じように机に伏せてみる。
 嗚呼、成る程。
 確かに日差しが暖かくて、こうしていれば寝てしまいそうだった。
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