夜、会社から帰った私は、靴下を脱ぎ捨て、そのままベッドにダイブした。
普段ならば、例え何時であろうと、お風呂に直行し、湯船に浸かりながら彼と連絡をするのだが、今日はそんな気分ではなかった。
携帯は鞄に入れたまま。きっと電池も後一つか二つか。
「……。」
パチンと部屋の明かりを消し、私はそのまま目を閉じた。
悩みなんて、無い。
もう、これは悩みなんてレベルじゃない。だから気が付かなかった。
逢いたい。逢いたい。逢いたい。逢いたい。逢いたい。
逢いたくて、苦しくて、苦しくて。もう、窒息して死んでしまいそうで。
だから、考えないように蓋をした。
蓋をして、奥深くに押しやって、押しやって。
見えないところに、ゴトンと置き去りにした。
『彼氏くらいには、本音言いなさいよ。』
嫌よ。
言える訳が無いもの。言える訳が無い。
ぼんやり、ぼんやり。
窓から差し込む光が天井に当たり、それは、カーテンが揺れる度、ゆらりゆらりと波打った。
水面のようにゆらり、ゆらり。
私はまるで、大海原に放たれた、一匹の金魚。
小さな小さな、たった一匹の金魚。
苦しみながら、死んでいく。そうして、くるくる回って海底へと沈む。
場違いで、滑稽な。
……小さくて、非力な――私。
昨日も、彼と浴層でお喋りをしました。
彼は今年の春、七年間付き合った彼女と、漸く結婚するそうです。
おめでとうと言った私に、彼は今までで一等嬉しそうな笑いを、受話器越しにくれました。
end
10.01.22
誰夢でもないです