Shrot story
02
 夜、会社から帰った私は、靴下を脱ぎ捨て、そのままベッドにダイブした。
 普段ならば、例え何時であろうと、お風呂に直行し、湯船に浸かりながら彼と連絡をするのだが、今日はそんな気分ではなかった。
 携帯は鞄に入れたまま。きっと電池も後一つか二つか。
「……。」
 パチンと部屋の明かりを消し、私はそのまま目を閉じた。

 悩みなんて、無い。
 もう、これは悩みなんてレベルじゃない。だから気が付かなかった。
 逢いたい。逢いたい。逢いたい。逢いたい。逢いたい。
 逢いたくて、苦しくて、苦しくて。もう、窒息して死んでしまいそうで。
 だから、考えないように蓋をした。
 蓋をして、奥深くに押しやって、押しやって。
 見えないところに、ゴトンと置き去りにした。
『彼氏くらいには、本音言いなさいよ。』
 嫌よ。
 言える訳が無いもの。言える訳が無い。
 
 ぼんやり、ぼんやり。
 窓から差し込む光が天井に当たり、それは、カーテンが揺れる度、ゆらりゆらりと波打った。
 水面のようにゆらり、ゆらり。
 私はまるで、大海原に放たれた、一匹の金魚。
 小さな小さな、たった一匹の金魚。
 苦しみながら、死んでいく。そうして、くるくる回って海底へと沈む。
 場違いで、滑稽な。
 ……小さくて、非力な――私。




 昨日も、彼と浴層でお喋りをしました。
 彼は今年の春、七年間付き合った彼女と、漸く結婚するそうです。
 おめでとうと言った私に、彼は今までで一等嬉しそうな笑いを、受話器越しにくれました。


end
10.01.22
誰夢でもないです
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