Shrot story
04
 あの後、ぼんやりしながら書類の山に向き合う私の横で、副隊長は珍しく猛スピードで仕事を済ませていた。時折り、早く日曜にならないかしらだの、今回の飲み会は修兵持ちねだのと言っていたので、おそらく飲み会を行う週末まで仕事を残したくなかったのだろう。
 そして定時までに殆どの仕事を終わらせるとさっさと帰ってしまった。
 私はというと、誤字だらけのこの前行った虚討伐の報告書を発掘してしまい――おまけに締め切り間近である――、残業確定していたところだった。
 副隊長が帰った後、他の隊士達も私のところへ挨拶へ来て、次々と帰っていった。おそらくもう、十番隊には私以外誰もいない。
「……冬獅郎遅いな。」
 何処に居るのだろう。そう思って霊圧を探ろうとした時だった。
「円香、まだ居たのか。」
「あ、冬獅郎……。」
 執務室に静かに入ってきた冬獅郎に、私は思わず口をパクパクさせるが、最近彼に対して抱いていた違和感が言葉を紡ぐ邪魔をする。
 そんな私の様子に気付いているはずなのに、冬獅郎はただ一言。
「危ねえから、あまり遅くまで仕事するなよ。」
 そう言って給湯室へと姿を消した。
 わからない、冬獅郎がわからない。心配してくれているのはわかる。そこは疑っていない。ただ、向き合ってもらえていないような、そんな漠然と不安があった。
 その時、副隊長の言っていた言葉を思い出す。
「……とうしろう、すき……。」
 机に頭を半ばぶつけるように突っ伏して、小さく小さく呟く。
 全身をぐるぐると不安が駆け巡る。これを言って拒否されてしまったら、私は一体どうすればいいのだろう。
 しかし、もしこれで本当に冬獅郎が喜んでくれるのなら――。
 意を決して、私は冬獅郎のいる給湯室へと向かう。
 すると、入り口で二人分のお茶と練切を持った冬獅郎とぶつかりかけた。
「うわっ、ごめん。」
 咄嗟に謝ると、冬獅郎は驚きで見開いていた目を細めて、
「食おうぜ。お前甘いもん好きだろ。」
 そう言うと、お茶とお菓子を持ったままソファへ向かった。
「もしかして帰り遅かったのって、これ買ってたから?」
 私も後を追いながら尋ねると、冬獅郎は小さく頷いた。
「隊首会が長引いたのもあるが、菓子屋に寄ったら思った以上に時間かかっちまった。」
「へえ、冬獅郎がそういうことするの珍しいね。」
 そう言うと冬獅郎はバツが悪そうに答える。
「皆が仕事してる時にこういう事するのはどうかとも思ったんだが……。浮竹があんまりこの店の菓子を褒めるもんだからな。」
 ソファに座ると、冬獅郎がお茶とお菓子を私の前に差し出した。
 鮮やかで見事な細工がされたお菓子に、私は思わず目を見張る。
「綺麗……。食べてもいいの?」
「ああ。」
 そう言った冬獅郎は、小さく笑っていた。それが私には無性に嬉しく、同時に恥ずかしくもあった。
 恥ずかしさを隠すように俯きながらお菓子を食べていると、冬獅郎はソファに深くもたれて、吐き出すように言った。
「こういうの、久しぶりだな。」
 本当にその通りだった。二人並んでお茶をしたり、私の些細な言動に冬獅郎が笑ったり、こんなことは最近滅多にしていなかった。
 私は手に持っていたお茶菓子をテーブルに置いて、冬獅郎に向き直る。
 そして、そんな私の行動に驚いたような顔をしていた冬獅郎に、思い切り抱きついた。
「なっ、円香……!」
 驚いた声をあげた彼はきっと今頃耳まで真っ赤なのだろうなと、彼の服に顔を埋めながらぼんやり思う。しかし、体中熱い私もそれはきっと同じだから、ばれないようにと思い切り冬獅郎に顔を押し付けた。
「冬獅郎、大好き。」
 顔を押し付けたまま、籠もった声で愛を伝える。目を見てはっきり伝えるのは、私にはまだ恥ずかしすぎた。
 それでも冬獅郎はしっかりと聞き取ってくれた。
「俺も。」
 そう答えると、今度は冬獅郎が私の髪に顔を埋めるようにして、力強く抱きしめ返してきた。
「不甲斐のねえ恋人でごめんな。」
 嗚呼、副隊長の言っていた通りだった。
 私は冬獅郎の腕の中で思い切り首を横に振る。声を出したら、涙が溢れてしまいそうだったからだ。
 もう少し落ち着いたら、たくさん伝えよう。不安にさせてごめんなさい。私の事を愛してくれてありがとう。大好き。大好き。
 それまではこの温もりに甘えさせてもらおう。




end
2014.09.10


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