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真っ白でモフモフな耳と尻尾。
色白の肌。ふんわりウェーブした白い髪。
くりっとしたまんまる真紅の瞳
柔く女性らしさのある体躯。

その見た目から可愛らしい個性だねとよく言われる。女の子には羨望を越えた嫉妬の目を向けられることも少なくはない。男の子ウケするこの個性のせいでちやほやと持て囃される私が気に入らないらしく、おどおどして弱虫だった幼少期の私は虐められていた。耳を引っ張られたり、尻尾を強く握られたり。挙げ句の果てには右耳の端をハサミで切られた。

嫌だ。痛い。引っ張らないで。やめて。

顔を涙と鼻水でぐしゃぐしゃにしながら弱々しく訴えかける事しか出来ず、人気のある男の子に庇われてまた嫉妬の目を向けられた。何も出来ない弱い自分を棚に上げ、ただただ虐められた原因である個性を嫌いになっていった。

いらない。こんな個性なんていらない。

高学年になるにつれエスカレートしていく自身の個性への嫌悪感。そんな時だ。テレビ中継で活躍する彼女を知ったのは。


真っ白でモフモフな耳と尻尾。
小麦色の肌。ロングストレートの白い髪
キリッとした鋭い真紅の瞳。
鍛え抜かれ引き締まった美しい体躯。


「逃すかよヴィラン!てめェは私が蹴っ飛ばす!」

男口調の豪快な宣言通りヴィランを蹴り飛ばした女性ヒーローから目が離せなかった。彼女はなんて名前のヒーローなのだろうか。あまりヒーローに詳しくないから分からない。見たところ年齢が若く見えるので最近ヒーローになったばかりなのかもしれない。

「張り合いがねェな。このヒーローミルコとるならもっと強くなって出直して来い!!」

瓦礫に埋もれたヴィランは気絶していて彼女の煽りは当然聞こえてないだろう。むしろヴィランより周りの警察官にその発言で怒られて揉めている始末。中継はそのまま終わり、他のトピックに切り替わったものの私は情報番組が終わるまで放心していた。

「ヒーロー、ミルコ……」

自分と似た個性なのに全然同じじゃない。可愛いらしい個性。弱いから守ってあげたくなる個性。私が日頃から言われていたそれが覆される。

「……かっこいい」

うさぎは強い。勝手にか弱いと決めつけてその可能性を潰していたのは私だ。ミルコのように強くてかっこいい女性ヒーローになりたい。そうしていつか彼女の隣で一緒に戦うんだ。

「あら?ましろちゃんのお耳がピンっと立ってる」

夜ご飯の下拵えを終えたお母さんが私の耳を見て珍しいと驚いている。常にくたびれたように垂れていたからだろう。人より優れた聴覚のせいでヒソヒソ話しているつもりであっても耳に入ってしまう私への悪口を聞きたくなかった。端を切られて不恰好な右耳を隠したかった。存在感を出さないようになるべく小さく縮こまっていたかった。これらの理由から耳を垂らすのが癖になってしまったのだ。でもそれではダメだ。ミルコのように強くなるには。


「お母さん、私……ヒーローになりたい!!」

「ヒーロー?う〜ん……ましろちゃんには難しいんじゃないかしら」

「そんなことないよ!うさぎって強いの!」

跳躍力と脚力でヴィランを蹴り飛ばしたミルコの話を擬音多めでお母さんに伝えてみる。それでもお母さんは困り顔のままだった。

「ましろちゃん痛いの苦手でしょ?ヒーローはとっても危険なお仕事なの。お母さんはましろちゃんにヒーローになって欲しくないなぁ……。お父さんも心配しちゃうわ。ましろちゃんは可愛い一人娘だもの」

「痛いの我慢するし泣かないように努力する。お母さんとお父さんに心配かけないくらい強くなる!!」

絶対ヒーローになると既に泣きながら駄々を捏ねている私に説得力なんてなかったかもしれない。それでも普段は殆ど我儘を言わない私だったからか、最後は渋りながらも両親共々ヒーローになりたいという娘の夢を応援してくれることになった。子供にとって人気の職業であるヒーロー。それ故に単なる子供の時の小さな夢で成長すれば直ぐに根を上げて諦めるだろうと思われていたことなんて知らない。そんな当時の私は、ふんすと意気込みその日のうちに習っていたピアノ教室もバレエ教室もやめた。


宇佐見ましろ、強くなってヒーローになる為に道場通い始めます!!



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