01




両親の思惑は外れ、あれから私は強くなる為にせっせと道場に通っていた。バレエ教室で培った柔軟性はあるものの根本的な体力と筋力のなさを師範に駄目だしされ、自主練もしなくてはと学校に行く前に早朝ランニングを始めた。正直めちゃくちゃ眠たい。加えて雨の日は最悪。けれども全てはミルコのように強くなる為。めげずに突っ走るのみである。

小学校の頃の皆とは中学校で離れた。両親と相談し、隣接する学区内であれば学校選択が出来るとのことなので少し遠くなってしまうが学区外の折寺中学校に通うことにしたのだ。虐められていた私を知らない環境のほうが心機一転に丁度いいだろうと。やはり一気に性格を変えるのは中々難しい。しかしミルコを目標に身も心も鍛え始めた私は一味違うのだ。難癖をつけてくる相手にはミルコのような口調で対応した。するとどうだろう。普段は穏やかだけど怒ると人が変わると見くびられなくなった。これはもうミルコ様様だ。一度教室の窓ガラスを蹴り割ったのも大きかったかもしれない。

そんな私にも仲良くしてくれる友達がいる。クラスの皆も私を怒らせなければ普通だからと一定の距離感で接してくれていた。小学校の時とは違う楽しい学校生活に心が躍る。強くなるってこんなに世界が変わるのかと若干ズレた方向に進み、教師達の中で問題児認定されてる事は露知らず。

「確かに怒ってる時のましろの口調って隣のクラスの爆豪くんにそっくり」

「……?ばくごーくん?」

お昼休み。机を繋げて友人と二人でお弁当を食べていれば、彼女の口から脈絡もなしに何かに納得した様子で突然聞き覚えのない名前が出てきたので首を傾げる。漢字が分からないが随分と強そうな名前だ。隣のクラスの生徒と言っているけれど残念ながら全然知らない。

「うっそ。ましろって爆豪くん知らないの?」

「そのばくごーくんって有名人なの?アイドルやってるとか?」

「アイドル?!いやそれは無い!!まじか……。本当に知らないじゃん。まぁでもましろ、私と一年の時クラス離れてたもんね。必然的に私と同じクラスだった爆豪くんと縁がないわけだ。今も隣のクラスとはいえ、合同授業とかは爆豪くんのクラスと同じになった事ないし……」

ぶつぶつと一人の世界に入り込んだ友人を放ってだし巻き卵を味わう。煮物のにんじんをさりげなく友人のお弁当へ移すことも忘れない。にんじんは嫌いだ。例え憧れのヒーローであるミルコの好きな食べ物であったとしても、にんじんは私の未だ倒せないヴィランである。好きになれない。

「爆豪くんを知らないましろが知ってるわけないだろうけど……」

「うん……?」

「ましろの怒ってる時のことを“宇佐見の爆豪スイッチ”とか“宇佐見の爆豪モード”って言われてたりするんだよね」

「なんで?!」

だからほんと似てるんだって、と友人は私があげた煮物のにんじんを再び私のお弁当へ戻しながら言う。仕方ない。煮物のにんじんは家に持って帰ろう。それよりも今はばくごーくんだ。何故私の知らない同級生の名前を勝手につけられなければいけないのか。せめてつけるなら“宇佐見のミルコスイッチ”とか“宇佐見のミルコモード”にして欲しい。

そこまで似ているのだろうか。私が真似しているのはミルコなのだけれど。その私の怒りモードがばくごーくんと似ているということはつまり。


「ばくごーくんも私と同じくミルコのフォロワー……?」

ヒーロービルボードチャートでめきめきと順位を上げてきているミルコだから有り得る。彼女の魅力に気づき、リスペクトしているのではないだろうか。はたまた私のように彼女が若手ヒーローの時からのフォロワーかもしれない。期待の眼差しで友人を見れば手を横に振って否定している。

「あー、違う違う。爆豪くんが好きなのはオールマイト。一年生の時の自己紹介でいずれトップヒーローになって高額納税なんちゃらみたいな事言ってた」

「なんだ残念……。オールマイトかぁ。確かにかっこいいけど私の中ではミルコが一番」

「はいはい。……まぁ、爆豪くんには関わらない方がいいよ。これぞ不良って感じで怖い。顔は整ってるからちょっとワルな感じがタイプの女子に人気だけどいつも顰めっ面だし何より性格が悪い」

凄い言われようだ。ばくごーくん。誰とでも気さくに仲良く出来る友人にここまで言わせるなんて逆に凄い。二年生になったばかりでまだ関わりがないけれど隣のクラスだからもしかしたら今後会うかもしれない。あまり重要ではないが気になるのでそのばくごーくんとはどういう漢字で書くのかと、こちらは重要であろう外見の特徴も友人から教えてもらったところでお昼休みが終わった。爆発の『爆』に富豪の『豪』。画数使い過ぎだ。アイボリー色のツンツン頭に赤目の三白眼。目付き、態度、口調、性格が悪いとのこと。個人的に良い部分が私とミルコと同じ赤目と口調が似ている部分しかないのだけれど。友人が要注意人物として挙げるくらいだ。関わらないに越した事はない──



…………のだけれど。

……………………いやいや、そんな。


「んだてめェ!いてェだろうが!クソうさぎ女ァ!!」


これぜっっっったい爆豪くんだよ!!!



3


目次

MAIN

TOPへ