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人と人の繋がりは実に脆い。こうも簡単に切れてしまうなんて幼少期を共に過ごした三人の誰もが思っていなかったに違いない。喧嘩してすれ違いながらもなんだかんだで一緒に成長して行くものだと。しかしながら子供だからこそ互いに素直になれなくて、意地を張り、元鞘に戻るタイミングが掴めず取り返しのつかないことになってしまったんだ。
「……んでてめェがそっち側にいんだよ!!」
「友莉ちゃん?!どうして!!」
いつにも増して吊り上がった赤い眼を持つ少年の表情は怒りと驚き、動揺を滲ませていた。そして髪色と同色の真ん丸な眼をこれでもかと見開いた緑の少年は怒りこそないが、その表情は困惑といった様子で瞳孔が揺れていた。
二人は少女の幼馴染であり、彼女にとってヒーローだった。
無個性だからと差別されていたが、夢を諦めずひたすら努力して雄英高校ヒーロー科に合格した臆病だけど勇敢な緑谷出久。
未来予知の個性を持ち合わせていなくても彼等ならきっと素敵なヒーローになれると確信があった。
恐らくヒーローになった彼等の守るべき対象に自身はいない。
どこで間違ってしまったのか。彼女は自分にそう問いかける。だが答えは既に分かりきっていた。あの時をきっかけに歯車が狂い始めたと。
「クソがっ!何とか言えやコラ!」
「……ごめん。ごめんね、勝己くん。出久くん」
「友莉ちゃんを返せ!」
「おいおい怖いなぁ。酷いなぁ。横暴だ。……でもさぁ、こいつを先に傷付けて捨てたのはおまえ達だろ?幼馴染クン」
台詞とは裏腹に怯えた表情ではなく、むしろこの状況が実に面白いといった風に口角を上げた死柄木弔は器用に中指だけを軽く立てた両手を友莉の両肩に置いた。恐らく幼馴染二人を含め、この場にいる大半の者が無害そうな少女が不気味な手を至るところに装着した青年によって囚われていると思っているに違いない。実際に少女は数日前、拉致されたのだが、その数日で気持ちの天秤が
「普通科の止原友莉。突然無断欠席していたと担任から聞いていたが……。おい爆豪に緑谷!これはどういうことだ!!」
「んなこと知るかよっ!」
「僕もわけが……」
何故普通科の女子生徒が訓練演習場に突然現れた
「話の腰を折ってしまいますが、初めまして。我々は
「友莉!!」
「友莉ちゃん!!」
切羽詰まった声色で名前を呼ばれた友莉は顔をあげる。そこには今にも黒霧の個性で飛ばされそうになった幼馴染二人がこちらに手を伸ばそうとしていた。けれどそれも一瞬で。思い出したかのようにその手は下されそのまま広場から消えてしまった。
「ハハッ……期待しただけ無駄だったな、おまえ。あの二人の躊躇った顔、最高だったなぁ?これで諦めついただろ」
「はい……ありがとうございます。死柄木さん。やっぱり駄目でした」
あの時と違ってだいぶ制御も出来るようになった。それでも感情の起伏によって勝手に発動してしまうのが怖くて友莉は常に手袋をつけて生活している。直に触れなければ無個性も同然。二人にもそう話していた。なのに彼等は手を下ろした。つまりはそういうことだ。少なくとも友莉はそう捉えた。彼女の天秤は完全に傾く。幼馴染達と敵対する側へと。
「改めて止原友莉。ようこそ
そう言ってにへらと笑った死柄木弔は掻き毟って爛れた手を友莉に差し出す。こちらの個性を知っていても自分に躊躇うことなく差し出された手。少女にとってそれがどんなに嬉しいことで、心が救済されたかきっと彼は知らないだろう。
また、少女も知らないだろう。五指で触れると崩壊する個性を持った彼の手。それに畏怖なく勝手知ったる様親指を避けて置かれた自分より小さな手に驚いていることを。
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