[03]
「心操人使、名部中学校出身。個性は洗脳。ヒーロー科の実技試験入試は落ちたけど、体育祭のリザルトによっちゃ編入を検討してくれるらしいからそれ狙ってる。よく
私の隣の席に座る彼は自己紹介で堂々とそう公言した。誰もが彼の熱の篭った自己紹介に聞き入っていたに違いない。かく云う私も今までずっと俯いていたが、思わず顔を彼へと向けてしまった。
不眠症なのかと心配になるくらいくっきりとした隈を拵え、気怠げで一見クールな感じに見える彼だが、このクラスの中で誰よりも目を爛々とさせていた。
そんな彼を目の当たりした私は黒いレザー手袋を付けた両手を机の下に隠してぎゅっと握る。何もかもを諦め絶望していた私には彼がとても眩しくて、自分が酷く惨めな気持ちになったから。
一度解れた関係を再び結び直す技量が私にはなかった。中学二年生の時に起こした個性事故を境に私を取り巻く環境は変わってしまったんだ。
私が勝己くんの個性を盗んだといつの間にか折寺中学校内で広まっていた。幼馴染を含めクラスの皆にも個性の説明をした。盗みの個性ではないと。直接触れなければ平気だと。それでも先入観が強かったのだろう。プリントを配る時や、ちょっと手が触れてしまっただけで怯えられたり、手を払われることが多くなった。
三年生の時は隣のクラスの勝己くんや出久くんが喧嘩をしていても呼ばれなくなった。
仲良くしていた友人も私と一緒にいると周りの目が怖いからとあっさり私から離れて行った。唯一個性を持っていない出久くんだけは何度か話をしたが、ヘドロ事件以降、何やら彼も本格的に雄英の受験勉強を始めるからと申し訳なさそうに私から離れて行った。
勝己くんに至っては全く話を聞いてくれる様子がなかった。それでも勘違いされたままでは嫌だったので、強引に引き止めて個性の説明だけはした。やはり目は合わせてくれなかったが。
「ねぇ、止原さん……大丈夫?自己紹介の時、凄く険しい顔で両手握りしめてたけど」
「えっ……」
まさか彼の方から声を掛けられるとは思わなかった。入学式とガイダンスも終わり帰路に就く生徒が多い中、私はあまり早く帰りたくもないので暫く教室で過ごすか、図書室的な場所を探して時間を潰そうかと考えていた矢先の事だ。
机に頬杖を突きながら私を見やる彼。いつから見ていたのだろう。そして、私が彼の自己紹介の時に机の下で両手を握っていたのがバレていた。
「俺の自己紹介で何か気に障ることでも言ったかと思ったんだ」
「とんでもないっ。心操くんの自己紹介とても良かったよ」
「お世辞でも面と向かって言われると恥ずかしいな。改めて、俺は心操人使。よろしく」
握手の意味で心操くんは私に手を差し出してきた。私は恐る恐る彼と握手をする。握手なんてここ一年していない。
「……ところでその手袋ってさ、何か止原さんの個性と関係あったりする?自己紹介で個性のこと言ってなかったけど」
本題とばかりに話に入った心操くん。見かけによらずよく喋る。しかしながらピシャリと停止した私を見て、やはり触れてはいけない事だったのかと申し訳なさそうに謝られた。私は彼と違って自分の個性を言うことが出来ない。怖いのだ。怯えた目で見られるのが。きっと個性を知ったら彼も握手なんてしてくれない。そんな臆病な私と違って彼は凄い。夢をしっかり持っていて、自分の個性と向き合っている。
この学校に通う生徒は私には眩しい。ヒーロー科でヒーローを目指す幼馴染達や、心操くんのように編入してでもヒーロー科に入りたい普通科の生徒達。ヒーローを支えたいと思ってるサポート科や経営科の生徒達。
私が雄英高校普通科を選んだ理由は国立の高校で、設備が充実しているのに関わらず学費が安いから。また、特待生枠に入れれば全額免除される制度が有り、両親の負担にならないと思ったからだ。何より自分の子があの雄英高校に通っていると言うだけでステータスにもなる。親に志望校を話せば案の定即決だった。
両親どちらともでもない個性を発現させた私。私のせいで両親はお互いに不倫を疑い昼夜喧嘩するようになった。どちらが私を引き取るのかとか、学費や生活費だとか、初めのうちは私に隠れて言い争っていた様だがここ最近は悪化している。今は私が自立したら離婚するという案で固まっているみたいだが。要は私が邪魔なんだ。早い所、手に職をつけなければ。そう言った意味では経営科も良かったかもしれない。
人によっては私が雄英高校を選んだ理由も立派な志望動機と言ってくれるだろう。それでも皆の自己紹介を聞いた身としては私の志望動機は薄っぺらく感じたのだ。駄目だ。どうも思考が全てマイナスに向いてしまう。
「止原さんって変わってるよ。俺の個性を聞いたら普通警戒するんだけどな」
「心操くんはむやみに個性を使わないと思う……。あれだけヒーローになりたいって熱く自己紹介してたから。心操くんがその個性を使う時はきっと、そうしたほうが良い時だよ。まだ少し先だけど体育祭、頑張ってね」
私の言葉に心操くんは手で首を触りながら視線を落とし、小さな声でお礼を言っていた。
心操くんに個性を隠さず、きちんと説明していたら私は彼と共にヒーローを目指す未来もあったかも知れない。
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