密林の記者
#00.プロローグ
人々は紋章術と共に生きてきた。古いものが力を持つという信仰をもって、各地の古い言葉で紋章術を使用してきた。自分の生命をほんの少しだけ捧げることで。
紋章術の誕生がいつなのかは、定かではない。ただ、太陽暦元年より前の遺跡から、使用されていた痕跡は見つかった。各地に伝わる古い伝承からも、そのことが伺える。
時代を経て、紋章術は道具に適用され、まず紋章剣が生み出された。人々は紋章剣であらゆる脅威に対抗した。
いつしか紋章術は人々の暮らしに恩恵を授けた。紋章術を応用した移動手段、紋章術を利用した機械。それらは紋章技術と呼ばれ、人々の暮らしを便利にした。
しかし、紋章技術は際限なく人々の生命を蝕み、多くの人がこのために生命を落とした。
あるアイドル歌手の死がそのことを世界に広めた。以後、紋章技術は禁忌とされ、封印された。同時に紋章術そのものが厭離され、人々の記憶から、紋章術と共に生きてきたことが失われた。
これは、唯一残された紋章文化を拠り所として生きる民族の最期を綴った物語である。